『箱庭図書館』(乙一)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/12 『箱庭図書館』(乙一), 乙一, 作家別(あ行), 書評(は行)

『箱庭図書館』乙一 集英社文庫 2013年11月25日第一刷

僕が小説を書くようになったのには、心に秘めた理由があった(「小説家の作り方」)。ふたりぼっちの文芸部で、先輩と過ごしたイタい毎日(「青春絶縁体」)。雪面の靴跡にみちびかれた、不思議なめぐり会い(「ホワイト・ステップ」)。【物語を紡ぐ町】で、ときに切なく、ときに温かく、奇跡のように重なり合う6つのストーリー。ミステリー、ホラー、恋愛、青春・・・・乙一の魅力すべてが詰まった傑作短編集! (集英社文庫)

これはなかなかに無い(発想からなる)本で、知ってる人はともかくも、もしも知らないなら知らないうちに読んでみて、読み終わった後でそれが何なのかを知った方がいいかも知れません。

そうでないと(色々と)迷うことになるような気がします。もしかすると読もうとする当初の意気込みが削がれしまうことにもなりかねません。熱烈な乙一ファンなら尚のこと、賛否が分かれて当然の本であろうと思われます。

幸いにも(!?)何も知らないで読んだ私の感想はというと、6つの話それぞれに、いつものように「乙一らしさ」を存分に味わえたとは思います。中でも「青春絶縁体」は面白かったし、やっぱり上手い。高校生の頃のうぶさやイタい様子がよく伝わって来ます。

ところが全体を通してみた場合、何とはなく「統一感」に欠けるような、どことは言えないのですが、どうにもギクシャクしているような感じがあってすっきりしません。

「乙一の魅力すべてが詰まった傑作短編集」には違いないのですが、言えば詰まり過ぎているような、全部の話は繋がっているにはいるのですがやや強引にも思え、なるほどそういうことかとストンと腑に落ちない気持ちが残ります。

いずれにせよ、実際に読んでみてはじめて分かる感覚だと思います。読んで損することはありません。「それが何なのか」を知りたい人は、ぜひ手に取ってみてください。

この本を読んでみてください係数 80/100


◆乙一
1978年福岡県生まれ。本名は安達寛高。
豊橋技術科学大学工学部卒業。

作品 「失踪 HOLIDAY」「銃とチョコレート」「夏と花火と私の死体」「GOTH リストカット事件」「暗いところで待ち合わせ」「ZOO」他多数

関連記事

『噂の女』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『噂の女』奥田 英朗 新潮文庫 2015年6月1日発行 糸井美幸は、噂の女 - 彼女は手練手

記事を読む

『ポラリスが降り注ぐ夜』(李琴峰)_書評という名の読書感想文

『ポラリスが降り注ぐ夜』李 琴峰 ちくま文庫 2022年6月10日第1刷 レズビア

記事を読む

『愛すること、理解すること、愛されること』(李龍徳)_書評という名の読書感想文

『愛すること、理解すること、愛されること』李 龍徳 河出書房新社 2018年8月30日初版 謎の死

記事を読む

『星々たち』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『星々たち』桜木 紫乃 実業之日本社 2014年6月4日初版 この小説は、実母の咲子とも、二度目

記事を読む

『ことり』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『ことり』小川 洋子 朝日文庫 2016年1月30日第一刷 人間の言葉は話せないけれど、小鳥の

記事を読む

『ペインレス 私の痛みを抱いて 上』(天童荒太)_書評という名の読書感想文

『ペインレス 私の痛みを抱いて 上』天童 荒太 新潮文庫 2021年3月1日発行

記事を読む

『夜の側に立つ』(小野寺史宜)_書評という名の読書感想文

『夜の側に立つ』小野寺 史宜 新潮文庫 2021年6月1日発行 恋、喪失、秘密。高

記事を読む

『雨の夜、夜行列車に』(赤川次郎)_書評という名の読書感想文

『雨の夜、夜行列車に』赤川 次郎 角川文庫 2017年1月25日初版 「今夜、九時の列車よ - 」

記事を読む

『あなたの燃える左手で』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文

『あなたの燃える左手で』朝比奈 秋 河出書房新社 2023年12月10日 4刷発行 この手の

記事を読む

『無理』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『無理』奥田 英朗 文芸春秋 2009年9月30日第一刷 〈ゆめの市〉は、「湯田」「目方」「

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑