『罪の余白』(芦沢央)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/10
『罪の余白』(芦沢央), 作家別(あ行), 書評(た行), 芦沢央
『罪の余白』芦沢 央 角川文庫 2015年4月25日初版
どうしよう、お父さん、わたし、死んでしまう - 。安藤の娘、加奈が学校で転落死した。「全然悩んでいるようには見えなかった」。クラスメートからの手紙を受け取った安藤の心に、娘が死を選んだ本当の理由が知りたい、という思いが強く芽生える。安藤の家を弔問に訪れた少女、娘の日記を探す安藤。二人が出遭った時、悪魔の心が蠢き出す・・・・・・・。女子高生達の罪深い遊戯、娘を思う父の暴走する心を、サスペンスフルに描く! (角川文庫)
第3回野性時代フロンティア文学賞受賞作。
名門女子校に通う娘・加奈を転落事故で亡くした行動心理学者・安藤聡が、真相を追って娘のクラスメート・木場咲(きば・さき)に接触。すると、学園の頂点に君臨し、目的のためには手段を選ばない咲の邪悪な本性を目の当たりにしていく - というお話。
読んだ感想はというとこれが実に微妙で、鋭くもあるのですが、ときに鈍重で、いまいち盛り上がりません。咲はいいのですが、安藤がやや諄い。気持ちはわかるのですが、それはなるだけ別の言葉で書いて欲しかった。彼には、できれば問答無用に殺して欲しかった。
ベタ(闘魚)、ダブルバインド、夏目漱石の 『こころ』 と カプグラ症候群・・・・・・・等々
何かの象徴、特異な心の在りようを示そうとするこれら一連の引用は、実は大して意味を成しません。必要とは思えず、むしろ無駄ではないかと。そんな感じがします。
ちなみに(プロが言うには)、
野性時代フロンティア文学賞の選評で小説家の池上永一は、「娘をいじめ事故死に追い込まれた父の復讐は湊かなえの 『告白』 と被る部分はあるが、手札の豊富さで読者を飽きさせない。特に 「悪意」 に対しての描写は秀逸で、女子のスクールカーストの構造は興味深い」と評価しながらも、
作品全体については「手札のダブつきも感じ、物語のうねりよりも先に作者がカードを切ってしまい、微妙にテンポがずれている」と述べた。美しい描写だったせっかくのベタは本筋に深く投影されておらず、早苗もやはり生かし切れていなかった」とテクニック不足を指摘。受賞は「作品から湧き上がってくる熱意」「この著者の只事ではないエネルギーを感じた」と、作者への期待によるものが大きいことが述べられている。(wikipediaより) - とのこと。
※大傑作でも超おススメでもありません。が、思春期の女子高生の生き辛さ、ややこしさは、とてもよくわかります。よろしければ読んでみてください。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆芦沢 央
1984年東京都生まれ。
千葉大学文学部史学科卒業。
作品 「悪いものが、来ませんように」「今だけのあの子」「いつかの人質」「許されようとは思いません」など
関連記事
-
『白いセーター』(今村夏子)_書評という名の読書感想文
『白いセーター』今村 夏子 文学ムック たべるのがおそい vol.3 2017年4月15日発行
-
『ざんねんなスパイ』(一條次郎)_書評という名の読書感想文
『ざんねんなスパイ』一條 次郎 新潮文庫 2021年8月1日発行 『レプリカたちの
-
『冬雷』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文
『冬雷』遠田 潤子 創元推理文庫 2020年4月30日初版 因習に縛られた港町。1
-
『月』(辺見庸)_書評という名の読書感想文
『月』辺見 庸 角川文庫 2023年9月15日 3刷発行 善良無害をよそおう社会の表層をめく
-
『オロロ畑でつかまえて』(荻原浩)_書評という名の読書感想文
『オロロ畑でつかまえて』 荻原 浩 集英社 1998年1月10日第一刷 萩原浩の代表作と言えば、
-
『夏目家順路』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文
『夏目家順路』朝倉 かすみ 文春文庫 2013年4月10日第一刷 いつもだいたい機嫌がよろしい
-
『よみがえる百舌』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文
『よみがえる百舌』逢坂 剛 集英社 1996年11月30日初版 『百舌の叫ぶ夜』から続くシリーズ
-
『ある一日』(いしいしんじ)_書評という名の読書感想文
『ある一日』いしい しんじ 新潮文庫 2014年8月1日発行 「予定日まで来たというのは、お祝
-
『どこから行っても遠い町』(川上弘美)_書評という名の読書感想文
『どこから行っても遠い町』川上 弘美 新潮文庫 2013年9月1日発行 久しぶりに川上弘美の
-
『月の満ち欠け』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文
『月の満ち欠け』佐藤 正午 岩波書店 2017年4月5日第一刷 生きているうちに読むことができて