『橋を渡る』(吉田修一)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/09 『橋を渡る』(吉田修一), 作家別(や行), 吉田修一, 書評(は行)

『橋を渡る』吉田 修一 文春文庫 2019年2月10日第一刷

ビール会社の営業課長、明良
都議会議員の夫と息子を愛する篤子
TV局の報道ディレクター、謙一郎
2014年の東京で暮らす3人の選択 -

2014年春
東京の中心 「八谷町」 で妻と暮らす新宮明良は、ビール会社の営業課長。部下からも、友人からも信頼される、大人の男。そんな彼の家に、謎めいた贈り物がつづく。「家の前に日本酒が置いてあるけど」 「こんどは米? 」 妻・歩美の経営する画廊に絵を持ち込んで断られた画家・朝比奈達二のしわざか?

2014年夏
東京都議会議員の夫と息子を愛する赤岩篤子。息子のスイミングスクールにつきそい、ママ友とボランティア活動に打ち込むよき妻、よき母。でも、彼女には、夫が都議会で 「なかったことにされたセクハラ野次」 を飛ばした本人ではないか、という、ひそかな不安があった。
やがて彼女は知る。大切な人の不正や、裏切りを。「もしもし 『週刊文春』 さん? 今週号、スクープないじゃありませんか。もっともっとニュースを読ませて! みながセクハラ野次事件を忘れるように!! 」 愛する人を守ろうと自分に言い聞かせながら、篤子は心身のバランスを失っていく。

2014年秋
テレビの報道ディレクター、里見謙一郎は正しさを追い求め、歌舞伎町で生きる女の子や香港の雨傘革命を取材している。万能細胞の研究者・佐山恭二教授にも、「STAP騒動のように、興味本位で番組を制作するつもりはありません。佐山教授の、iPS細胞から精子・卵子を作り出す生殖医療研究を取材させてください」 と粘りづよく交渉している。
ある日、謙一郎は、「週刊文春」 編集部につとめる友人の水谷から、結婚を控えた薫子が、和太鼓サークルの主宰者・結城と会っているのではないかとほのめかされる。俺に黙って、なぜ?

大切な人の不倫、不正、裏切り。正義によって裁くか、見ないふりをするか。やさしさに流されてきた3人の男女が立ち止まるとき -

結局は、明良の善意は一顧だにされないまま放置されます。夫を思い、息子を思うあまりに、見て見ぬふりを通そうとする篤子は、徐々に疑心暗鬼になり、やがて常軌を逸するようになります。

世の中は、必ずしも 「正義が勝つ」 とは限りません。こちらが正しいと思うことに対し、素直に相手が応じなかったとしたら、もっともだとは思うが、私にはそれ以上に正しいと信じることがあると言ったとしたらどうでしょう? 

惚れた腫れたはしょうがない - 。とはいえ、一度は諦め、結婚式を間近に控えた今に至って不倫相手とまた会っているとは・・・・・・・。結局のところ、謙一郎が思う 「正義」 は薫子には届かず、彼はいたく傷付くことになります。

それぞれの悩みや秘密を抱えながら、2014年の東京で暮らす3人が人生の中で下した小さな決断が驚愕のラストへとつながる -「週刊文春」 連載時から話題沸騰。吉田修一史上、最も熱い議論を呼んだ意欲作を文庫化。(文藝春秋BOOKS及び文春文庫より抜粋)

この本を読んでみてください係数  80/100

◆吉田 修一
1968年長崎県長崎市生まれ。
法政大学経営学部卒業。

作品 「最後の息子」「熱帯魚」「パレード」「パーク・ライフ」「悪人」「横道世之介」「平成猿蟹合戦図」「愛に乱暴」「怒り上・下」など多数 

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