『ヒーローインタビュー』(坂井希久子)_書評という名の読書感想文

『ヒーローインタビュー』坂井 希久子 角川春樹事務所 2015年6月18日初版


ヒーローインタビュー (ハルキ文庫 さ 19-1)

 

「坂井希久子」で検索をかけて、出てきた画像を見て驚いた。いきなりSM嬢のごとく鞭を持って、露わな姿でこちらを見つめる女性の写真が現れた。これは何かの間違いではないかと、他の「ふつう」の写真を何度も見返したけれど、やっぱりこれが「坂井希久子」その人らしい。

今度は慌ててWikiを見たら、「小説家」の次に、わざわざ重ねて「官能小説家」と書いてある。ここらでやっと、ああ間違いないのだなと一応納得したのですが、何せ、この『ヒーローインタビュー』という小説を読んで受けた印象からは、まったく予想もしなかったことなので、正直ちょっとたまげてしまいました。

が、要らぬ先入観は妨げのもと。今回は、初めて読んだこの本の感想に徹することと致します。これは官能小説ではありません。正真正銘の「感動小説」です。その上、相当面白い話なのです。
・・・・・・・・・・
少し長くなりますが、まあ書出しを読んでみてください。ワクワクするような、「はじまり」です。

彼について語る者は多くない。
彼は2001年から2010年までの間、日本プロ野球界に野手として在籍していた。だが一度としてタイトルを手にしたことはなく、ヒーローインタビューのお立ち台に上がったこともなければ、病気の子供のためにホームランを打ちもしなかった。

在籍期間を通して背番号は55。ピンボールのように一軍と二軍を行ったり来たり。むしろ「二軍の帝王」と渾名されるほど、一軍では見どころのない選手だった。

間違っても伝記が書かれるような男ではない。だから彼のことはあまり語られない。だが彼について語るところのある者にとって、彼はまぎれもなく英雄(ヒーロー)だった。

「腐っても鯛」ではないですが、彼は言ってもプロになった人物です。並みの才能ではなかったのです。しかし、残念ながらその才能が開花せぬまま、プロ野球界を去ることになります。

とても哀しくて、辛いことです。なまじ期待され続けていたからこそ、辛さは計ることができません。何より彼は純粋で、驕るということがありません。日の目を見ない間も努力を惜しまず、鍛錬に励みます。身近でそれを知る人たちは、だから期待し続けたのです。
・・・・・・・・・・
英雄(ヒーロー)の名前は、仁藤全と書いて「にとうあきら」と読みます。「全」を「あきら」とは読まず、人は彼のことを「ゼンさん」と呼びます。球界の関係者は、彼の仕事ぶりに皮肉を込めて「ゼンゼン」と呼んだりもします。

彼は高校時代に42本の本塁打を放ち、阪神タイガースに8位指名で入団します。しかし、入団後は期待に反して伸び悩み、結果10年間で171試合に出場、通算打率2割6分7厘、わずか8本塁打という成績に終わります。

球界では注目されることなく引退するゼンさんですが、当然のことながら、彼には彼にしかない人生があり、これまでの道程があります。それを一冊の本にしようと考えた人物がいます。その人物は、ゼンさんをよく知る人たちを訪ねて、インタビューをします。

彼らには、一つの共通点があります。それは、彼らの誰もにとって、ゼンさんがかけがえのない英雄(ヒーロー)だということです。その、自分たちの「英雄(ヒーロー)」についてインタビューを受ける--だから、タイトルは『ヒーローインタビュー』なのです。

インタビューの「受け手」となる面々をご紹介しましょう。

〈庄司仁恵〉・・・ゼンさん行きつけの理容店の店員。後にゼンさんの恋人になります。
〈宮澤秋人〉・・・ゼンさんをプロに誘ったスカウトマン。現在は歳を取り嘱託の身分です。
〈佐竹一輝〉・・・阪神のルーキーで鳴り物入りのスター投手。なぜかゼンさんとは気が合います。
〈山村昌司〉・・・中日ドラゴンズのベテラン投手。ゼンさんとは不思議な因縁で結ばれています。
〈鶴田平〉・・・ゼンさんの出身である尼崎市立中央高等学校、略してアマコーの野球部時代の友人。もう一人の友人・菅原尚人、通称スガがショートで、平がキャッチャー、ゼンさんはファーストで4番でした。平には、ゼンさんをこよなく愛するオトンがいます。

誰の話が一番面白いかって? まあまあ、そう慌てずに。そこは、きっちり自分で読んでご判断ください。本当に甲乙つけ難いのです。敢えて言うなら、私なら、ということでしたら、友人の平君・・・、のオトンが一番好きになりました。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


ヒーローインタビュー (ハルキ文庫 さ 19-1)

◆坂井 希久子
1977年和歌山県生まれ。
同志社女子大学学芸学部日本語日本文学科卒業。

作品 「虫のいどころ」「ウィメンズマラソン」「虹猫喫茶店」「ただいまが、聞こえない」「泣いたらあかんで通天閣」「羊くんと踊れば」「こじれたふたり」他

◇ブログランキング

いつも応援クリックありがとうございます。
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

関連記事

『白い部屋で月の歌を』(朱川湊人)_書評という名の読書感想文

『白い部屋で月の歌を』 朱川 湊人 角川ホラー文庫 2003年11月10日初版 白い部屋で月の

記事を読む

『十字架』(重松清)_書評という名の読書感想文

『十字架』重松 清 講談社文庫 2012年12月14日第一刷 十字架 (講談社文庫) &

記事を読む

『正体』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『正体』染井 為人 光文社文庫 2022年1月20日初版1刷 正体 (光文社文庫) 罪

記事を読む

『不時着する流星たち』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『不時着する流星たち』小川 洋子 角川文庫 2019年6月25日初版 不時着する流星

記事を読む

『 Y 』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文

『 Y 』佐藤 正午 角川春樹事務所 2001年5月18日第一刷 Y (ハルキ文庫) [

記事を読む

『この胸に突き刺さる矢を抜け』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『この胸に突き刺さる矢を抜け』 白石 一文 講談社 2009年1月26日第一刷 上下 各@1,600

記事を読む

『ワン・モア』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『ワン・モア』桜木 紫乃 角川書店 2011年11月30日初版 ワン・モア (角川文庫)

記事を読む

『はんぷくするもの』(日上秀之)_書評という名の読書感想文

『はんぷくするもの』日上 秀之 河出書房新社 2018年11月20日初版 はんぷくするもの

記事を読む

『ホテル・ピーベリー 〈新装版〉』(近藤史恵)_書評という名の読書感想文

『ホテル・ピーベリー 〈新装版〉』近藤 史恵 双葉文庫 2022年5月15日第1刷

記事を読む

『深い河/ディープ・リバー 新装版』(遠藤周作)_書評という名の読書感想文

『深い河/ディープ・リバー 新装版』遠藤 周作 講談社文庫 2021年5月14日第1刷 深い

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『小島』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文

『小島』小山田 浩子 新潮文庫 2023年11月1日発行

『あくてえ』(山下紘加)_書評という名の読書感想文

『あくてえ』山下 紘加 河出書房新社 2022年7月30日 初版発行

『ママナラナイ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『ママナラナイ』井上 荒野 祥伝社文庫 2023年10月20日 初版

『猫を処方いたします。』 (石田祥)_書評という名の読書感想文

『猫を処方いたします。』 石田 祥 PHP文芸文庫 2023年8月2

『スモールワールズ』(一穂ミチ)_書評という名の読書感想文

『スモールワールズ』一穂 ミチ 講談社文庫 2023年10月13日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑