『今昔百鬼拾遺 河童』(京極夏彦)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/09
『今昔百鬼拾遺 河童』(京極夏彦), 京極夏彦, 作家別(か行)
『今昔百鬼拾遺 河童』京極 夏彦 角川文庫 2019年6月15日再版

昭和29年、夏。複雑に蛇行する夷隅川水系に、次々と奇妙な水死体が浮かんだ。3体目発見の報せを受けた科学雑誌 「稀譚月報」 の記者・中禅寺敦子は、薔薇十字探偵社の益田が調査中の模造宝石事件との関連を探るべく現地に向かった。第一発見者の女学生・呉美由紀、妖怪研究家・多々良勝五郎らと共に怪事件の謎に迫るが - 。山奥を流れる、美しく澄んだ川で巻き起こった惨劇と悲劇の真相とは。百鬼夜行シリーズ待望の長編! (角川文庫)
冒頭、それはそれは延々と、河童に関する女学生たちの他愛の無い会話を聞かされることになります。約50ページの間続き、漸く本来の物語 - 奇怪極まる連続水死事件へと繋がってゆきます。
「何て品のないお話なの - 」
そうとも思わない。
呉美由紀は、別に何とも思わなかったのだけれど、橋本佳奈は顔を顰めた。そう云う謂い伝えなんですもの仕方ないですわと市成裕美は云う。
紫色のお尻が好(い)いんですってと裕美は云う。
土曜の午後、美由紀達は校庭のベンチに腰を下ろして、他愛もない会話を交わしている。
能くある光景ではあるのだろうが、話題にしているのは凡そ世間の人が考えるだろう女学生らしいそれではない。
美由紀達は選りに選って 河童 の話をしている。
馬を引きますでしょ と佳奈は云う。
馬を引っ張るのですわと佳奈は云った。馬は大きいだろうに。美由紀の認識だと河童は子供くらいの大きさなのだが、力があるのか。
「岩手では引きません? 宮崎では引きますの」
「それは引きますわ。引くって、馬を水に引き込むと云うことですわね? 河童はそうするものですわ」
「河童は胡瓜が好きなのではなくって? 」
「そうそう。胡瓜や、茄子が好きなの」
「河童って、餡ころ餅好きじゃない? 」
「後は、人間の臓物だと聞きましたけど・・・・・・・」
「臓物って」
そこですわと清花が云った。
「ではお尋きしますわ。佳奈さん、呼び方は知りませんけども、九州の河童はそれをどうやって食べますの? 」
「河童は、お腹を割いて臓物を抜いたりするのかしら? 九州では」
「そんな話は聞きませんけど」
「なら、お尻 - ですわよね? 」
裕美はどこか勝ち誇ったような口調で云った。
「最初に云ったじゃない? お尻から抜くんですわ」
そうなのよ河童はお尻が好きなのよと裕美が云った。
(笑っている途中で、美由紀は突如思い出す)
「あ、そうだ、千葉にも河童いるよ」
「・・・・・・・そう云えば少し離れた村に神社があった。親戚が住んでるの。あれは慥(たし)か河童神社」 *正しくは「河伯」神社。それを美由紀は「河童」と勘違いしています。
総元村(ふさもとむら) - だったと思う。
隣村と云えば隣村なのだろうが、かなり遠かった。慥か川もあったから、河童もいたのかもしれない。否、河童の謂い伝えがあった、とするべきか。
(この期に及び、美由紀の記憶はどんどん遡る)
とにもかくにも、お尻だ - と。元来河童はお尻が好きで、食べるのは内臓ではなく、尻子玉だと。尻子玉とは何なのか、それは誰にもわからない。但し、尻子玉を抜かれると、人は腑抜けになると云う。
水の神様、龍王様。 河伯神社。 利根川に夷隅川 ・・・・・・・ ここいら辺で漸く女学生らは、河童の話の前に、本来話題にしていたことを思い出します。最近頻繁に現れるという破廉恥漢のことでした。
ここひと月半程の間、浅草を中心にして覗き魔が横行しており、どう云う訳か被害者は皆、男性なのでした。風呂場や脱衣場を覗かれたのも、凡て成年男子 - 否、中年男性ばかりでした。最初は女性と間違えたのではないかとも言われたのですが、女性からの被害届は一向に出ません。男ばかりを狙っているとしか思えないのです。
但し、だからどうだ、という話ではあります。(続く)
この本を読んでみてください係数 85/100

◆京極 夏彦
1963年北海道小樽市生まれ。
北海道倶知安高等学校卒業。専修学校桑沢デザイン研究所中退。
作品 「鉄鼠の檻」「魍魎の匣」「嗤う伊右衛門」「百鬼夜行-陰」「覘き小平次」「後巷説百物語」「邪魅の雫」「西巷説百物語」他多数
関連記事
-
-
『スイート・マイホーム』(神津凛子)_書評という名の読書感想文
『スイート・マイホーム』神津 凛子 講談社文庫 2021年6月15日第1刷 隙間風
-
-
『砂に埋もれる犬』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
『砂に埋もれる犬』桐野 夏生 朝日新聞出版 2021年10月30日第1刷 ジャンル
-
-
『メタボラ』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
『メタボラ』桐野 夏生 文春文庫 2023年3月10日新装版第1刷 ココニイテハイ
-
-
『死刑にいたる病』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文
『死刑にいたる病』櫛木 理宇 早川書房 2017年10月25日発行 主人公の筧井雅也は、元優等生
-
-
『玉蘭』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
『玉蘭』桐野 夏生 朝日文庫 2004年2月28日第一刷 ここではないどこかへ・・・・・・・。東京
-
-
『文豪、社長になる』(門井慶喜)_書評という名の読書感想文
『文豪、社長になる』門井 慶喜 文春文庫 2025年7月10日 第1刷 「芥川君、ありがとう
-
-
『世界から猫が消えたなら』(川村元気)_書評という名の読書感想文
『世界から猫が消えたなら』川村 元気 小学館文庫 2014年9月23日初版 帯に「映画化決定!」
-
-
『乳と卵』(川上未映子)_書評という名の読書感想文
『乳と卵』川上 未映子 文春文庫 2010年9月10日第一刷 娘の緑子を連れて大阪から上京した
-
-
『宇喜多の捨て嫁』(木下昌輝)_書評という名の読書感想文
『宇喜多の捨て嫁』木下 昌輝 文春文庫 2017年4月10日第一刷 第一話 表題作より 「碁
-
-
『白い衝動』(呉勝浩)_書評という名の読書感想文
『白い衝動』呉 勝浩 講談社文庫 2019年8月9日第1刷 第20回大藪春彦賞受賞作
















