『にらみ』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『にらみ』(長岡弘樹), 作家別(な行), 書評(な行), 長岡弘樹

『にらみ』長岡 弘樹 光文社文庫 2021年1月20日初版

窃盗の常習犯・保原尚道が仮釈放中に保護司を殺害しようとして逮捕された。取り調べる片平成之は、以前、裁判で保原が供述を翻したりしないよう圧力をかけるべく “にらみ” をしていた。保原は自首しているのだが、片平は納得していない。保原は人を殺めようとするほどの悪人なのか - 。(表題作) 緻密な伏線、まさかのサプライズ、意外なツイスト、余韻のある結末 - 名手・長岡弘樹によるミステリー傑作集! (光文社文庫)

目次
餞別
遺品の迷い
実況中継
白秋の道標
雑草
にらみ
百万に一つの崖

以上七編、ひとつとして似通った題材、シチュエーション、あるいはミステリーとしてのトリックのない、多彩という一言に尽きる短編が並んでいる。シリーズキャラクターや共通するテーマも設けず、それぞれの一編に集中し、一期一会の驚きを読み手に届けようという書き手の強い意欲が感じ取れる作品ばかりだ。

先にその時点で意図が判然としない人間の行動や、ことさらに意味を感じないながらも記憶に残る光景の意外な “含み” が明らかになる、長岡ミステリーの定番ともいえる特徴と書いた。

長岡ミステリーの根底にある特徴、あるいは長岡らしさは確かにある。けれども、それが似通ったパターンの乱造に陥らないのは、自らのブランドを守りながら、絶えず - テーマ、手法あらゆる点で - 新たな領域を開拓しているからにほかならない。(解説より)

(幾分無理に思えるところがあるにはありますが) 基本すべての伏線がきっちり回収されているのが小気味いい。読むと、どれもに破綻がないのがわかります。なので、余分なことは気にせず、集中できていい。これは (ミステリーにとって) とても大事なことだと思います。

「教場」 ばかりが人気のようですが、私はそれより前の 『傍聞き』 が今でも一番気に入っています。『傍聞き』 を凌ぐ作品を読んでみたいと願っています。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆長岡 弘樹
1969年山形県山形市生まれ。
筑波大学第一学群社会学類卒業。

作品 「陽だまりの偽り」「傍聞き」「教場」「教場2 」「線の波紋」「波形の声」「群青のタンデム」「白衣の嘘」「血縁」他

関連記事

『ネメシスの使者』(中山七里)_テミスの剣。ネメシスの使者

『ネメシスの使者』中山 七里 文春文庫 2020年2月10日第1刷 物語は、猛暑日が

記事を読む

『にぎやかな落日』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『にぎやかな落日』朝倉 かすみ 光文社文庫 2023年11月20日 初版1刷発行 「今まで自

記事を読む

『45°ここだけの話』(長野まゆみ)_書評という名の読書感想文

『45° ここだけの話』長野 まゆみ 講談社文庫 2019年8月9日第1刷 カフ

記事を読む

『十七八より』(乗代雄介)_書評という名の読書感想文

『十七八より』乗代 雄介 講談社文庫 2022年1月14日 第1刷発行 注目の芥川賞候補作家

記事を読む

『残された者たち』(小野正嗣)_書評という名の読書感想文

『残された者たち』小野 正嗣 集英社文庫 2015年5月25日第一刷 尻野浦小学校には、杏奈先

記事を読む

『夢見る帝国図書館』(中島京子)_書評という名の読書感想文

『夢見る帝国図書館』中島 京子 文春文庫 2022年5月10日第1刷 「ねえ、どう

記事を読む

『王国』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『王国』中村 文則 河出文庫 2015年4月20日初版 児童養護施設育ちのユリカ。フルネーム

記事を読む

『猫を拾いに』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『猫を拾いに』川上 弘美 新潮文庫 2018年6月1日発行 誕生日の夜、プレーリードッグや地球外生

記事を読む

『夏目家順路』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『夏目家順路』朝倉 かすみ 文春文庫 2013年4月10日第一刷 いつもだいたい機嫌がよろしい

記事を読む

『ナオミとカナコ』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『ナオミとカナコ』奥田 英朗 幻冬舎文庫 2017年4月15日初版 望まない職場で憂鬱な日々を送る

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『メイド・イン京都』(藤岡陽子)_書評という名の読書感想文

『メイド・イン京都』藤岡 陽子 朝日文庫 2024年4月30日 第1

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月2

『執着者』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『執着者』櫛木 理宇 創元推理文庫 2024年1月12日 初版 

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑