『火のないところに煙は』(芦沢央)_絶対に疑ってはいけない。

公開日: : 最終更新日:2024/01/08 『火のないところに煙は』(芦沢央), 作家別(あ行), 書評(は行), 芦沢央

『火のないところに煙は』芦沢 央 新潮社 2019年1月25日8刷

「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」。突然の依頼に、かつての凄惨な体験が作家の脳裏に浮かぶ。解けない謎、救えなかった友人、そこから逃げ出した自分。作家は、事件を小説にすることで解決を目論むが -- 。驚愕の展開とどんでん返しの波状攻撃、そして導かれる最恐の真実。読み始めたら引き返せない、戦慄の暗黒ミステリ! (新潮社)

[目次]
第一話 染み
第二話 お祓いを頼む女
第三話 妄言
(「火のないところに煙は」 を改題)
第四話 助けてって言ったのに
第五話 誰かの怪異
最終話 禁忌

- 榊さんはそれには答えず、『ところで』 と切り出した。
『どうして五つ目の話を書こうと思ったんだ』
「・・・・・・・何か問題がありましたか」 私はさらに不安になり、携帯を握る手に力を込めた。だが、榊さんは 『いや』 と短く否定し、『で、どうして書いた』 と繰り返す。

一話目は神楽坂怪談を書くよう依頼があったから。二話目は一話目を読んだ君子さんから話をされたから三話目は、その二話目の件で連絡を取ったついでに俺がふと思い出して話したから。四話目は、小説新潮 の校閲担当者が不動産会社勤務の飲み仲間に三話目の話をした流れで怪異が起こる家の話をされたから。五話目は、その飲み仲間の不動産会社社員が同業者に四話目の話をしたところ、さらに別の同業者がお祓いをしてくれる霊能者を探しているらしいという話になったから

榊さんが一息に言った。あまりに淀みない口調に、私は言われた内容について深く考えることもできず 「あ、はい、そうです」 とひとまずうなづく。
『つまり、どれも別々の流れでたまたま持ち込まれた話だということになる』
「そうですけど・・・・・・・」
それがどうしたんですか、と尋ねる間もなく、『他にもいろんな話が持ち込まれたんじゃないか』 と質問を重ねられた。

意図的に選んだわけじゃないんだな
「意図的にというか、それも成り行きというか・・・・・・・何となく、これなら短篇になりそうだという話が見つかったから書いたというか」
じゃあ、わざとじゃないのか
わざと?
先ほどから、榊さんが何を話そうとしているのかわからなかった。わからないからこそ、落ち着かない気持ちになる。

『今回、この話を改めて読んでいたら気になったんだ』 榊さんは私の言葉を遮るようにして言った。

この岸根という男がこの後どうなったのか

そう続けられて、この話というのが五話目の 「誰かの怪異」 のことだと遅れて理解する。そう言えば岸根さんの消息は 「岩永さんが電話をかけ直したけれど出なかった」 という以降は書かなかったし、そもそも岩永さんからも聞いていなかった。話しの本筋とは関係なかったからだ。

死んだそうだ

え?
一瞬、何を言われたのかわからなかった。訊き返そうと口を開くが、舌が上手く動かない。そのまま何も言えずにいるうちに、榊さんが 『あの一件の直後らしい』 と続ける。
「本当に、まさか亡くなったなんて・・・・・・・」

それより問題なのは死に方だよ
突然、叫びながら車道に飛び出したらしい

・・・・・・・ それは、つまり、どういうことなのか。(最終話 「禁忌」 より)

※取りあえず第一話を読んでみて下さい。気に入れば、あとは (飛ばさず) 続けて読むように。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆芦沢 央
1984年東京都生まれ。
千葉大学文学部史学科卒業。

作品 「罪の余白」「今だけのあの子」「許されようとは思いません」「いつかの人質」「悪いものが、来ませんように」「貘の耳たぶ」他

関連記事

『邪魔』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『邪魔』奥田 英朗 講談社 2001年4月1日第一刷 『最悪』と双璧をなす、奥田英朗のクライム・

記事を読む

『たそがれどきに見つけたもの』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『たそがれどきに見つけたもの』朝倉 かすみ 講談社文庫 2019年10月16日第1刷

記事を読む

『きれいなほうと呼ばれたい』(大石圭)_書評という名の読書感想文

『きれいなほうと呼ばれたい』大石 圭 徳間文庫 2015年6月15日初刷 星野鈴音は十人並以下の容

記事を読む

『舞台』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『舞台』西 加奈子 講談社文庫 2017年1月13日第一刷 太宰治『人間失格』を愛する29歳の葉太

記事を読む

『純平、考え直せ』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『純平、考え直せ』奥田 英朗 光文社文庫 2013年12月20日初版 坂本純平は気のいい下っ端やく

記事を読む

『純子』(赤松利市)_書評という名の読書感想文

『純子』赤松 利市 双葉社 2019年7月21日第1刷 四国の辺鄙な里に生まれた純

記事を読む

『プラスチックの祈り 上』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『プラスチックの祈り 上』白石 一文 朝日文庫 2022年2月28日第1刷 「これ

記事を読む

『アルマジロの手/宇能鴻一郎傑作短編集』(宇能鴻一郎)_書評という名の読書感想文

『アルマジロの手/宇能鴻一郎傑作短編集』宇能 鴻一郎 新潮文庫 2024年1月1日 発行 た

記事を読む

『むらさきのスカートの女』(今村夏子)_書評という名の読書感想文

『むらさきのスカートの女』今村 夏子 朝日新聞出版 2019年6月20日第1刷 近

記事を読む

『つやのよる』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『つやのよる』井上 荒野 新潮文庫 2012年12月1日発行 男ぐるいの女がひとり、死の床について

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『曾根崎心中/新装版』(角田光代 原作 近松門左衛門)_書評という名の読書感想文

『曾根崎心中/新装版』角田 光代 原作 近松門左衛門 リトルモア 2

『枯木灘』(中上健次)_書評という名の読書感想文

『枯木灘』中上 健次 河出文庫 2019年10月30日 新装新版3刷

『僕の女を探しているんだ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『僕の女を探しているんだ』井上 荒野 新潮文庫 2026年1月1日

『この本を盗む者は』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『この本を盗む者は』深緑 野分 角川文庫 2025年11月5日 8版

『いつも彼らはどこかに』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『いつも彼らはどこかに』小川 洋子 新潮文庫 2025年11月25日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑