『舞台』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『舞台』西 加奈子 講談社文庫 2017年1月13日第一刷


舞台 (講談社文庫)

太宰治『人間失格』を愛する29歳の葉太。初めての海外、ガイドブックを丸暗記してニューヨーク旅行に臨むが、初日の盗難で無一文になる。間抜けと哀れまれることに耐えられずあくまで平然と振る舞おうとしたことで、旅は一日4ドルの極限生活に - 。命がけで「自分」を獲得してゆく青年の格闘が胸を打つ傑作長編。(講談社文庫)

自意識過剰な青年の馬鹿馬鹿しくも切ない魂のドラマ! とあります。

読むと確かにそうなのですが、感動的であるとか、最後は思わず泣けてしまった - とはなりません。葉太という青年を極端にデフォルメしている点を斟酌し、仮に共感するにはしたとしても、それで良い小説かというとそうは思えないのです。

できそこないの息子がする「自分探しの旅」は、如何にもあるような「勘違い」としか思えないのです。葉太に限らず誰もがそうで、言えばきりのないことであるように思います。なぜ葉太を、ほかにいる若者たちと区別して扱うのか。そこがわかりません。

巻末にある早川真理恵という女性(結構美形で上智大学を出ている才色兼備なタレントさん。私は知らない)との対談の中で、西加奈子はこんなことを言っています。

葉太はハンサムだし裕福に育っていて、そういう子たちの悩みってスルーされがちだと思うんです。そうじゃない子たちの悩みのほうが切実に取られがちで、もちろんそれは尊重すべきだし癒すべきだけど、モテはしても愛されないとか、金持ちで顔も良くてなに悩んでんねんって言われて無視されがちな悩みがあることを無視したくない。

特に今世界情勢も大変な中で、「そんなんで悩むなんてあかん」と言われてしまうの辛いやろうな、そういう悩みを書きたいなと。(後略)

これって、どうよ。どう思います?

最初ふと感じたのは、西加奈子には珍しく葉太という青年、つまりは男性を主人公にしている点です。(他のことは全部後回しにして、取りあえずこの点に関してだけ集中して書きたいと思います)

なぜ(いつものように)女性ではないのでしょう? 女性ではなく、男性が主役であらねばならない理由がわかりません。何か特別な訳があるのなら、それが何なのかを教えてほしいと思います。

まさか、(自分と同じ)女性ならこうは書けないんじゃないかと - 当て推量ではありますが、問題は、そう考えてしまう人(現に私がそうです)がいるということです。

「葉太はハンサムだし裕福に育っていて、そういう子たちの悩みってスルーされがちだと思うんです」って、(私に言わせれば)そういう葉太であるからこそ、葉太みたいにハンサムでも裕福でもない者からすれば、およそ悩みらしい悩みとは思えないのではないかと。

思春期にあって心を砕く最たるものの一つが己の容姿だろうと思います。そして次にくるのは、家にはお金があるのかどうかということ。自分の家は(本当は)貧乏なのではないか - これは切実な問題で、容姿と併せてことのほか重大な「悩み」になります。

おそらく、そのどちらか一方でも望み通りではない場合、人というのは否応なく卑屈になり、やりたいことができずに、言いたいと思うことが言えなくなります。時として激しく絶望し、身動きできなくなることがあります。

異性のことなど論外で、家のことを何も知らない同級生の前でも、気後れしたようにしか応じることができなくなります。それを自意識過剰と呼ぶのなら、葉太のそれとは一体何なのでしょう。

そしてそのことは、たぶん、女性においての方が尚顕著ではないかと。29歳にもなって未だに自分がわからないでいる葉太はともかく、女性は女性でいる限り、自意識の呪詛から抜け出せないのではないかと。(失礼を言うのではありません。それが宿命だと言っているのです)

自分と同じ女性が主人公では書きにくかったのではないかと。言いたいことがわからぬ訳ではありませんが、少し無理をしているのかもしれません。蛇足になりますが、純粋な個人の悩みと世界情勢の間には、何の因果関係もないように思うのですが・・・・

 

この本を読んでみてください係数 80/100


舞台 (講談社文庫)

 

◆西 加奈子
1977年イラン、テヘラン生まれ。エジプト、大阪府堺市育ち。
関西大学法学部卒業。

作品 「あおい」「さくら」「うつくしい人」「窓の魚」「円卓」「漁港の肉子ちゃん」「きりこについて」「ふくわらい」「通天閣」「炎上する君」「サラバ!」「i(アイ)」他多数

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