『アルマジロの手/宇能鴻一郎傑作短編集』(宇能鴻一郎)_書評という名の読書感想文
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『アルマジロの手/宇能鴻一郎傑作短編集』(宇能鴻一郎), 作家別(あ行), 宇能鴻一郎, 書評(あ行)
『アルマジロの手/宇能鴻一郎傑作短編集』宇能 鴻一郎 新潮文庫 2024年1月1日 発行
ただならぬ陶酔がここにある。『姫君を喰う話』 に続く傑作!
![](http://choshohyo.com/wp-content/uploads/2024/01/71yxUA54bRL._AC_UY218_.jpg)
異様な危うさを孕む表題作の他、「月と鮟鱇男」 「魔楽」 など、官能の極みと人間の源を短編に昇華させた七編。
彼は 「手が・・・・・・・アルマジロの手が」 というばかりだったのです - 。不気味な緊張感を孕む怪奇な作品 「アルマジロの手」、美しい姫君に恋をした狸の哀切 「心中狸」、むさぼり喰らう快楽にとり憑かれた男の無上の幸福 「月と鮟鱇男」 の他、「海亀祭の夜」 「蓮根ボーイ」 「鰻池のナルシス」、そして甘美な爛熟世界に堕ちた男を描く傑作 「魔楽」 を収録。官能の深みと生の哀しみを短編に昇華させた七編。(新潮文庫)
七つの話どれもが面白い。これは間違いありません。官能の極みを描いたものがあり、それとは一味違う、“常ならざるもの“ の妖しさを生々しく描き出したものがあります。一話一話が饒舌で、続けて読むと頭がくらくらします。
冒頭からの二作品の紹介をしましょう。
七編を収録した本作は、どちらかというと官能の色が濃かった従来の短編集とは違い、作品ごとに色合いが様々に変化する宇能文学の万華鏡のごとき特質が表現されている。
表題作の 「アルマジロの手」 と 「心中狸」 は、芥川賞受賞の記者会見で、「学者と作家の両方になりたい」 と語っていた氏の文化人類学や民間伝承への関心を示す作品だ。中南米のメキシコへの旅を舞台にした 「アルマジロの手」 では、追いつめられると、相手を抱きしめ、窒息させてしまう珍獣の生態と女の男に対する愛の宿命を重ねつつ、日本人男性に恋した情熱的なメキシコ人女性の悲劇を描く。
「心中狸」 も、阿波の国に伝わる狸伝説をもとにした語りは学究的だが、そこからの展開では宇能節が炸裂する。嫌われていることは承知しながらも、気位の高い姫君に惚れた狸が、女中に化けて、姫の下のお世話まですることに気の遠くなるほどの悦びを感じるさまが、匂やかに、手触り、舌触りのいい文章でつづられる。
厠でかしずく様子は、こんなふうに美しく始まる。「卵をむいたようなそのお尻の、何とまあ可愛らしく、神々しいばかりに美しかったことでござりましょう」 (続きは本編で/解説より)
微に入り細に入り、描写は続きます。こちらがどうにかなりそうな、狸の、姫君に対するあまりに狂おしく献身的な “奉仕“ のさまは、やがて姫君の、狸に向けた恋情へと変化します。結果、狸が、自分が狸であることを忘れてしまうのは、そんな日々の少し先、思わぬライバルの出現によるものでした。
結論。
本作は一気には読まず、一作一作、噛みしめ、じっくりと味わうことをおすすめする。そうすれば、宇能文学の毒は媚薬にも変わるでしょう。(同解説より)
この本を読んでみてください係数 85/100
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◆宇能 鴻一郎
1934年北海道札幌市生まれ。
東京大学文学部国文学科卒業後、同大学院博士課程中退。
作品 「逸楽」「血の聖壇」「痺楽」「べろべろの、母ちゃんは・・・・・・・」「むちむちぷりん」「夢十夜 双面神ヤヌスの谷崎・三島変化」他多数
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