『路地の子』上原 善広_書評という名の読書感想文

『路地の子』上原 善広 新潮文庫 2020年8月1日発行

路地の子(新潮文庫)

金さえあれば差別なんてされへんのや!
大宅賞受賞作家が路地を生きた青年の劇的な半生を描いた圧巻の物語

昭和39年、大阪 - 。中学三年生の龍造少年は学校にはいかず、自らの腕だけを頼りに、天職と信じた食肉の道へと歩み始めた。時に暴力も辞さない 「突破者」 と恐れられ、利権団体や共産党、右翼やヤクザと渡り合いながら食肉業界を伸し上がった一匹狼 - 。時代の波に激しく翻弄されながら、懸命に 「路地の人生」 を生き抜いた人々の姿を、大宅賞作家が活写した、狂おしいほどに劇的な物語。(新潮文庫)

目次
第一章 昭和三十九年、松原市・更池
第二章 食肉業に目覚めた 「突破者」 の孤独
第三章 牛を屠り、捌きを習得する日々
第四章 部落解放運動の気運に逆らって
第五章 「同和利権」 か、「目の前の銭」 か --
第六章 新同和会南大阪支部長に就く
第七章 同和タブーの崩壊を物ともせず

「路地」 とは 「被差別部落」 のことをいいます。同じ人間でありながら、そこに生まれただけで、蔑まれ、虐げられた人々がいるのをご存じでしょうか。

この物語は、大阪のとある路地で生まれ、路地で育つうち、コッテ牛 (暴れ牛、言うことを聞かない強情な牛の意) と綽名され、突破者 (向こう意気の強い直情径行の人間のこと)と揶揄された上原龍造の半生が綴られています。

一匹狼でありながら、部落解放同盟、右翼、共産党、ヤクザと相まみえ、同和利権を取り巻く時代の波に翻弄されながらも生き抜いていくその姿はまさに圧巻で、激烈という他ありません。

路地で盛んだった食肉業で身を立てると誓い、牛や豚の解体作業の錬磨に励み、龍造は誓い通りにみごと成功を収めます。絶頂期には年商50億円もの成果を挙げるのでした。

但し、これはただの立身出世の物語ではありません。龍造の努力は大したものですが、おそらく読者のほとんどは、彼を (心から) 羨ましくは思わないでしょう。牛や豚の頭をかち割って、皮を剥ぎ血を抜いて、内臓をすべて引き出したあと、適当な大きさに肉の塊を切り分けていく・・・・・・・ 来る日も、来る日も。一日に何十頭も。百頭、二百頭も。

そんなことが、あなたにできるでしょうか? もしも龍造がその路地で生まれなかったとしたら、果たして彼は同じ道を志したでしょうか? 貧しく、満足に字も書けなかった彼にとって、それしか生きる方法がなかったからではなかったのでしょうか。

龍造ばかりではありません。路地で暮らす人のほとんどは同じような境遇で、限られた土地で身を寄せ合うようにして暮らしています。自由に仕事を選ぶことなど、夢のまた夢の話でした。

※「牛を屠り、捌きをする」 場面だけでも読んだ価値はあります。まずは殺生で (ハンマーで昏倒させてから頸動脈を切る)、誰かがそれをやらなければなりません。あたり前ですが、魚や鶏の比ではありません。

この本を読んでみてください係数 85/100

路地の子(新潮文庫)

◆上原 善広
1973年大阪府生まれ。
大阪体育大学卒業。

作品 「日本の路地を旅する」「被差別の食卓」「聖路加病院訪問看護科 11人のナースたち」「私家版 被差別辞典」「差別と教育と私」他多数

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