『作家刑事毒島の嘲笑』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『作家刑事毒島の嘲笑』中山 七里 幻冬舎文庫 2024年9月5日 初版発行

性格最悪同士の最低の化かし合い。狙いは選挙!? テロは阻止できるのか - 。

毒舌刑事が鋭い口撃を武器に犯罪者を追う、大人気作家刑事毒島シリーズ第3弾!

右翼系雑誌を扱う出版社が放火された。思想的テロと見て現場を訪れた公安の淡海は、作家兼業の刑事・毒島と出会う。犯罪者をいたぶることが趣味の彼は公安の考えも小馬鹿にし、淡海は反発。衆議院選挙が迫る中、さらに極左集団が絡む事件が勃発、ついに魔の手は候補者に向かう。テロは防げるのか - 。歪んだ正義を毒舌刑事が斬る痛快ミステリー。(幻冬舎文庫)

斬るべきは、斬る。遠慮や忖度などは一切ありません。下調べは万全で、相手は返す言葉もありません。追い込むだけ追い込んで、時に嘲笑するようなその尋問のやり方は、まさに毒島の真骨頂と言えるものでした。(おまけに、彼はかなりの人気作家であるらしい) 

〈作家刑事毒島〉 シリーズに登場する犯人は、一作目の 『作家刑事毒島』 の頃から変わらず鬱屈としたコンプレックスを抱え、肥大する自我を歪ませてしまった人間達である。本作では、望んだ自己実現が叶わなかった人間達がより大きな 「思想」 に自我を託して、怒りの刃を振るう様が描かれる。それ故に、彼らの 「思想」 は蓋を開けてみれば空虚なものばかりだ。

そんな犯人達に対し毒島はいつものように鋭い舌鋒を浴びせかけ、その空虚さを暴く。その最中、毒島は自身の作家としての 「思想」 に触れる。

彼は 「一つの思想に縛られるなんて物語を構築する上では邪魔でしかない」 とばっさり言い切り、思想信条で腹は膨れないと笑ってみせる。なんとも彼らしい言い分だ。ビジネスライク極まれりだが、毒島の言だと思えば納得もいく。

だが、物語が進んでいくにつれ、毒島の本当の 「思想」 とも言えるべきものが出てくる。それはプロ市民である鳥居を丸め込む為に言ったこの言葉だ。

物書き全員が左翼思想の持ち主とは限らないけれど共通点もある。それは立場の弱いものやマイノリティに寄り添いたいという精神。」 (「三 されど私の人生」)

同行していた淡海は抱き込みの詭弁と呆れているが、私はこの言葉は毒島の作家としてのスタンスの深部にあるものなのではないか、とも思った。毒島は刑事としては異端の存在であるが、彼なりの矜持を持って悪に相対している存在でもある。同様の矜持が、確固たる 「思想」 が作家としての毒島にもあるのではないか、と今巻ではひしひしと感じられる。

その思想は、実は他ならぬ中山七里に共鳴するところがあるのだ。(解説より)

中山七里と毒島真理。名前の 「し」 と 「り」 がおんなじで、もしかすると二人はかなり近しい存在 - “分身“ ではないかしらと。(著者にとって毒島は) こうありたいと願う理想的な人物で、密かに “憧れ“ ているのではないかと思うのですが。皆さんは、どうでしょう?

目次

一 大いなる
二 祭りのあと
三 されど私の人生
四 英雄
五 落葉   解説 斜線堂有紀

この本を読んでみてください係数 85/100

◆中山 七里 1961年岐阜県生まれ。花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「贖罪の奏鳴曲」「追憶の夜想曲」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「境界線」他多数

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