『死ぬほど読書』(丹羽宇一郎)_書評という名の読書感想文
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『死ぬほど読書』(丹羽宇一郎), 丹羽宇一郎, 作家別(な行), 書評(さ行)
『死ぬほど読書』丹羽 宇一郎 幻冬舎新書 2017年7月30日第一刷
もし、あなたがよりよく生きたいと望むなら、「世の中には知らないことが無数にある」と自覚することだ。すると知的好奇心が芽生え、人生は俄然、面白くなる。自分の無知に気づくには、本がうってつけだ。ただし、読み方にはコツがある。「これは重要だ」と思った箇所は、線を引くなり付箋を貼るなりして、最後にノートに書き写す。ここまで実践して、はじめて本が自分の血肉となる。伊藤忠商事前会長、元中国大使でビジネス界きっての読書家が、読み方、活かし方、楽しみ方を縦横無尽に語り尽す。(幻冬舎新書)
新聞の書評欄に「話題の本」として紹介が載り、勇んで買いに行き、慌てて読んだのはいいにしても、「基本、私は人が勧める本は読まない」とあり愕然とした。
出た直後に重版なったという。どんな人が読んでいるのだろう? (買った私が言うのも何だが) この手の本が飛ぶように売れるとはとても思えない。ついたタイトルに騙されるか、もしくは書いた本人を個人的によく知る人が読むくらいのものだろう。
随分と立派な人のようである。出た大学は名だたる国立大で、誰もが知る商事会社の社長や会長を務め、今は会社の名誉理事、早稲田大学の特命教授でもあるらしい。
氏がこれまでの読書遍歴を振り返るところがある。(唖然とするに違いないので心して読んでください) それによると、
子ども時代は漫画に始まって、野口英世やシュバイツァーらの伝記、『世界少年少女文学全集』、アレクサンドル・デュマの『三銃士』やバーネット夫人の『小公子』『小公女』、(私が同調できるのはせいぜいこの辺りまで)
中学・高校時代は下村湖人の『次郎物語』、大学時代はロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』『魅せられたる魂』、福澤諭吉の『学問のすすめ』、志賀直哉の『暗夜行路』、倉田百三の『出家とその弟子』、『日本文学全集』『世界文学全集』『マルクス=エンゲルス選集』『レーニン選集』、
イギリスの歴史学者E・H・カーの『ロシア革命』、アイザック・ドイッチャーの『武装せる予言者・トロツキー』、トルストイの『アンナ・カレーニナ』『戦争と平和』、丸山眞男の『現代政治の思想と行動』、
社会人になってからは吉川英治の『宮本武蔵』『新・平家物語』、アメリカのジャーナリスト、デイヴィッド・ハルバースタムの『メディアの権力』、ドイツの文化哲学者オスヴァルト・シュペングラーの『西洋の没落』、レビィ=ストロースの『悲しき熱帯』、
イギリスの歴史学者キース・ジェンキンズの『歴史を考えなおす』、トルストイの『人生論』、アダム・スミスの『国富論』、マックス・ウェーバーの『職業としての学問』等々、心に刻まれた本は、それこそ無数にあります。(本文より)
という、おそろしく「名著」だらけのものになる。
これが始まって33ページから34ページにかけての辺り。期待していた今頃の小説のことは何ほども書いてない。書いてあるのは又吉直樹の『火花』と村田紗耶香の『コンビニ人間』 くらいのもので、褒めもせず、世間の評判ほどには面白くなかったと書いてある。
作者の名前や正確なタイトルは書かずにおいて、芥川賞の受賞作品だけは欠かさず読むようにしているという文章中に、ちょいと出てきたおまけのような扱いで、である。
期待したのとはおよそ違う内容で、中盤以降は仕事自慢のような、年寄りが決まって言う人生訓のようなものに姿を変えてゆくにつけ、(限りなく私には縁のない人に思えてきて) 慌てて買った自分の愚かさが心底嫌になる。
この本を読んでみてください係数 75/100
◆丹羽 宇一郎
1939年愛知県生まれ。
名古屋大学法学部卒業。公益社団法人日本中国友好協会会長。元伊藤忠商事(株)社長。
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