『屑の結晶』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『屑の結晶』(まさきとしか), まさきとしか, 作家別(ま行), 書評(か行)
『屑の結晶』まさき としか 光文社文庫 2022年10月20日初版第1刷発行
最後に流れる涙が止まらない!
「誰を殺そうと俺の自由だろ」 二人の女性を殺したとして逮捕されたクズ男が、笑みの下に隠していた真実 - 。
二人の女性を殺したとして逮捕された小野宮楠生。逮捕後 「誰を殺そうと俺の自由だろ」 と開き直った供述をし、身柄送検時には報道陣にピースサインし、大騒動となった。「小野宮楠生を救う会」 から依頼され弁護を引き受けることになった宮原貴子は、小野宮と接しているうちに独特の違和感を覚える。違和感の根源は何か - 。総毛立つラストが待つ傑作が待望の文庫化! (光文社文庫)
書いた作家 (の作品) をよく知らない場合、表紙のデザインや自分勝手なイメージだけでは本は買わないことです。中に、まるでそぐわないと思うものがあるということ。らしくない、珍しく軽いタッチの表紙であったとしても、ためになるかどうかは読んでみなければわかりません。
物語のほんの序盤ではあるけれど、絵に描いたようなろくでなしのクズ男と、魔法にかけられているクズ女の見事な関係性である。正直にいえば鼻で笑ってしまったほどだ。
でも、だけど。
読み進むにつれ、そんなふうに 「あぁ、そういう系ね」 とカテゴライズしようとした自分の浅はかさにキリキリと頭が痛くなった。痛みは、痺れとなり、呼吸が苦しくなっていく。
そうなのだ。これまでにも、作者である、まさきとしかさんの小説を読むたびに、同じ痛みを感じてきたのに、私はすぐに忘れてしまう。人を思い込みで分類し、触れずに、踏み込まずに、切り捨てて、知らぬ顔をしてしまう。
いや、私だけではない、と思いたい。まさき作品を読み継いできた読者でも、おそらく 「屑の結晶」 という言葉から、本書で描かれているものごとを的確に思い描くことは難しいだろう。
簡単に連想できるような関係性や、表面的な言動ではかれる人間を、この作者が書くはずなどないのだから。(藤田香織/解説より)
著者の小説は読んだことがないというあなたには、この作品もさることながら、試しに 『あの日、君は何をした』 『彼女が最後に見たものは』 (いずれも小学館文庫) を読んでみてほしい。きっと思うことがあるはずです。私にとってまさきとしかは今最も読みたいと思う作家の一人で、読んで裏切られたことがありません。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆まさき としか
1965年東京都生まれ。北海道札幌市育ち。
作品 「夜の空の星の」「完璧な母親」「いちばん悲しい」「熊金家のひとり娘」「ゆりかごに聞く」「あの日、君は何をした」「祝福の子供」「彼女が最後に見たものは」他
関連記事
-
『薬指の標本』(小川洋子)_書評という名の読書感想文
『薬指の標本』小川 洋子 新潮文庫 2021年11月10日31刷 楽譜に書かれた音
-
『公園』(荻世いをら)_書評という名の読書感想文
『公園』荻世 いをら 河出書房新社 2006年11月30日初版 先日、丹下健太が書いた小説 『青
-
『月と蟹』(道尾秀介)_書評という名の読書感想文
『月と蟹』道尾 秀介 文春文庫 2013年7月10日第一刷 海辺の町、小学生の慎一と春也はヤド
-
『愚者の毒』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文
『愚者の毒』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2017年9月10日第4刷 1985年、上
-
『6月31日の同窓会』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文
『6月31日の同窓会』真梨 幸子 実業之日本社文庫 2019年2月15日初版 「案
-
『グロテスク』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
『グロテスク』桐野 夏生 文芸春秋 2003年6月30日第一刷 「人は自分のためにしか生きられな
-
『空海』(高村薫)_書評という名の読書感想文
『空海』高村 薫 新潮社 2015年9月30日発行 空海は二人いた - そうとでも考えなければ
-
『崖の館』(佐々木丸美)_書評という名の読書感想文
『崖の館』佐々木 丸美 創元推理文庫 2006年12月22日初版 哀しい伝説を秘めた百人浜の断崖に
-
『逆転美人』(藤崎翔)_書評という名の読書感想文
『逆転美人』藤崎 翔 双葉文庫 2024年2月13日第15刷 発行 美しすぎるのは不幸なのか
-
『デフ・ヴォイス/法廷の手話通訳士』(丸山正樹)_書評という名の読書感想文
『デフ・ヴォイス/法廷の手話通訳士』丸山 正樹 文春文庫 2015年8月10日第一刷 仕事と結