『青春ぱんだバンド』(瀧上耕)_書評という名の読書感想文

『青春ぱんだバンド』瀧上 耕 小学館文庫 2016年5月12日初版


青春ぱんだバンド (小学館文庫)

 

鼻の奥がツンとする爽快青春小説登場! 舞台は琵琶湖畔。高校3年生5人のバンドを巡る熱く切ないひと夏の物語。京都に近いが北陸にも近いという微妙な田舎町に暮らす主人公の秋祐は地元の名門校に通うダメダメ高校生。大学受験の大事な夏休みに、地元のヤンキー成俊に脅されて学園祭出演バンドを作ることに。医学部志望の彰、アイドル好きの郁哉、そして孤高の美少女ユキをメンバーに、にわかバンドが結成された。演奏曲に決まったのは「まっさん」なる人の曲。さまざまな困難を乗り越えて、ステージに立つことは出来るのか。そして受験はどうなる?(小学館文庫より)

滋賀県で生まれ育った人間が本当に滋賀県が好きかというとこれがなかなかに微妙で、おおよその人が一度や二度は、どうせならもう少しメジャーなところ(手近なところでは圧倒的に京都ということになります)で生まれたかったと思ったに違いないのです。

悲しいかな滋賀県は、忘れたものを思い出す時のようにしか「滋賀」とは言ってもらえません。「日本一の琵琶湖のある県」などと言われればまだいい方で、世界的な観光地である京都の隣にあるのに(あるいはそのせいで)、全くもって知名度というものがありません。

大津市(県庁所在地)の山奥に比叡山延暦寺(これはけっこう有名なはず)がありますが、これとてもややもすれば京都にあると勘違いしている人がいます。結構いるのです。九州や北海道ならまだしも、滋賀以外の、同じ関西の人間がそう思っているのです。

それが京都の大学に入ってよく分かりました。当時は聞いたことがなかったのですが、最近巷では滋賀県の人のことを「しが作」などと言うらしい・・・・。

しがさく、って・・・・。初めて耳にしたときは、何を言われているのか分かりませんでした。改めてじっくりと語感を確かめるように復唱してみると、何だか小学生の頃にあまり頭の良くないやんちゃ坊主が去り際に吐く捨てぜりふのような・・・・

県民性が「しがなく」見えるのを「滋賀」とかけて、しが作。作は「田吾作」の作のイメージでしょうか。田舎者。いかにも田舎くさくて、見るべきものがない県であり、市であり、町であって、自慢できるものと言えば琵琶湖の他には「ひこにゃん」くらいのもの。

あるのは田んぼと畑ばかりで、目立った産業もなければ観光地もない。休日ともなればせいぜい国道沿いにある量販店かユニクロへ行くのが関の山だとでも言いたげな・・・って、
んなわけ、ないでしょうよ!! 他に行くとこもやることもあるに決まっとるやん・・・・

と言ってはみるものの、実は内心では痛いところを突かれたと感じています。本当に行きたいのは煌びやかな繁華街にあるコジャレた店で、そんな店は滋賀にはないのです。大学にしてもそう。滋賀には迷うほどの数はなく、京都には星の数ほどの大学があります。
・・・・・・・・・・
以上のことを十分踏まえた上でこの小説を読んでください。滋賀県出身の作家といえば姫野カオルコくらいしか思い浮かばない私にしてみれば、久々の地元作家の出現であり、滋賀(しかも湖北の田舎)の実情を包み隠さず晒している様子が如何にも潔く感じられます。

期待通りに(!?)屈折しているのがよくて、若かりし頃の自分も、あの時あの状況ではまさに秋祐のようであったのだと、恥ずかしくもまた一方で大いに懐かしんでもいます。

秋祐をはじめこの物語に登場するバンドメンバーの面々は、あの頃の私であり、きっとあなた自身だと思います。生まれた場所がどこであれ、辺鄙な田舎町で生まれ育った同輩なら共感せずにおかないはずの、青春小説の王道と呼ぶに相応しい小説だと思います。

おおよそ関西圏の方なら秋祐がいうところの京都・大阪にある大学の難易度や認知度、あるいは人気の有り無しなどがリアルな情報として役に立つかも知れません。

最終的には彼らが高校を卒業(あるいは中退)し、その後どのような進路を取り、やがてどんな大人になったのかまでが記されているのですが、ちなみに、唯一びわ農業高校(通称農高)生だった成俊は、将来のレストラン経営を見据えて北びわこホテルへ就職します。

あとの4人、湖北随一の進学校・浅井高校(通称浅高)生であった面々は、ユキが東京の音大に推薦合格を果たし、郁哉は現役で同志社大学に合格します。彰はわけあって高校を退学し、その後大検に合格し、実質一浪で京都大学の医学部に受かります。

秋祐はというと、受験勉強を放棄して自動車教習所へ通ってはAT限定免許を取得。その後一浪し、京都の平凡な私立大学へ滑り込み、今は〈彦根城ブーム〉で手堅くもうけた、彦根市内にある出版社で働いています。

 

この本を読んでみてください係数  85/100


青春ぱんだバンド (小学館文庫)

 

◆瀧上 耕
1982年滋賀県生まれ。
立命館大学産業社会学部卒業。

作品 本作品で第3回「きらら文学賞」を受賞。

関連記事

『サブマリン』(伊坂幸太郎)_書評という名の読書感想文

『サブマリン』伊坂 幸太郎 講談社文庫 2019年4月16日第1刷 サブマリン (講談社文庫

記事を読む

『完全犯罪の恋』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文

『完全犯罪の恋』田中 慎弥 講談社 2020年10月26日第1刷 完全犯罪の恋 「人は

記事を読む

『実験』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文

『実験』田中 慎弥 新潮文庫 2013年2月1日発行 実験 (新潮文庫)  

記事を読む

『想像ラジオ』(いとうせいこう)_書評という名の読書感想文

『想像ラジオ』いとう せいこう 河出文庫 2015年3月11日初版 想像ラジオ (河出文庫)

記事を読む

『ピンザの島』(ドリアン助川)_書評という名の読書感想文

『ピンザの島』ドリアン 助川 ポプラ文庫 2016年6月5日第一刷 ピンザの島 &nbs

記事を読む

『月桃夜』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文

『月桃夜』遠田 潤子 新潮文庫 2015年12月1日発行 月桃夜 (新潮文庫nex) この世

記事を読む

『少年と犬』(馳星周)_書評という名の読書感想文

『少年と犬』馳 星周 文藝春秋 2020年7月25日第4刷 【第163回 直木賞受賞作】少年

記事を読む

『前世は兎』(吉村萬壱)_書評という名の読書感想文

『前世は兎』吉村 萬壱 集英社 2018年10月30日第一刷 前世は兎 (単行本) 7

記事を読む

『最後の命』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『最後の命』中村 文則 講談社文庫 2010年7月15日第一刷 最後の命 (講談社文庫) 中村文

記事を読む

『センセイの鞄』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『センセイの鞄』川上 弘美 平凡社 2001年6月25日初版第一刷 センセイの鞄 (文春文庫)

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『夜の側に立つ』(小野寺史宜)_書評という名の読書感想文

『夜の側に立つ』小野寺 史宜 新潮文庫 2021年6月1日発行

『地獄への近道』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『地獄への近道』逢坂 剛 集英社文庫 2021年5月25日第1刷

『ブルーもしくはブルー』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『ブルーもしくはブルー』山本 文緒 角川文庫 2021年5月25日改

『天国までの百マイル 新装版』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文

『天国までの百マイル 新装版』浅田 次郎 朝日文庫 2021年4月3

『七怪忌』(最東対地)_書評という名の読書感想文

『七怪忌』最東 対地 角川ホラー文庫 2021年4月25日初版

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑