『パッキパキ北京』(綿矢りさ)_書評という名の読書感想文
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『パッキパキ北京』(綿矢りさ), 作家別(わ行), 書評(は行), 綿矢りさ
『パッキパキ北京』綿矢 りさ 集英社 2023年12月10日 第1刷
味わい尽くしてやる、この都市のギラつきのすべてを。パッキパキの駐妻、真冬の北京を大暴走! 著者自身の中国滞在経験とその観察力が炸裂する、一気読み必至の “痛快フィールドワーク小説“
コロナ禍の北京で単身赴任中の夫から、一緒に暮らそうと乞われた菖蒲 (あやめ)。愛犬ペイペイを携えしぶしぶ中国に渡るが、「人生エンジョイ勢」 を極める菖蒲、タダじゃ絶対に転ばない。過酷な隔離期間も難なくクリアし、現地の高級料理から超絶ローカルフードまで食べまくり、極寒のなか新春お祭り騒ぎ 「春節」 を堪能する。街のカオスすぎる交通事情の把握や、北京っ子たちの生態調査も欠かさない。これぞ、貪欲駐妻ライフ! 北京を誰よりもフラットに 「視察」 する菖蒲がたどり着く境地とは・・・・・・・? (集英社)
綿矢りさの新刊 『パッキパキ北京』 を読みました。『大地のゲーム』 を最後に、彼女の本を読まなくなって8年、実に久しぶりのことです。
彼女が高校生でデビューし、大学生になり芥川賞を受賞し、結婚するまでの作品はおおよそ全部読みました。可憐な少女が思わぬ毒を吐く - その歯切れの良さがたまりませんでした。語彙が豊富で、感情描写が的確で。なぜこんな文章が書けるのか。それが不思議で、 妬ましくもありました。
結婚してまもなく菖蒲の夫は中国の北京に単身赴任した。じきに日本もコロナ禍になったが、菖蒲は緊急事態宣言を逆手に取って女友だちと旅行に行きまくり、ぜいたくに遊んでいた。
3年ほどたったある日、やつれた夫に適応障害気味だとリモートで訴えられる。駆けつけなければ離婚されてしまうかもしれない。食いぶちを失う危険感から、愛犬を連れて北京に行く。
中国語もしゃべれないしどんな国なのかも知らなかったが、北京につくと臆することなく街中を歩き回る。菖蒲の目を通して伝えられる景色や人の描写は繊細かつ明確で、高性能カメラの映像を見ているようで心が躍る。
「ウマいんじゃあぁ」 と叫びながらウエストまわりを気にせず、北京の食も旺盛に楽しむ。「脳が味になるってスゲエ」 と思ったアヒルの脳。頭つきのトリ料理も食べるうちに平気に。苦手な辛いものもいつも欲するようになる。急激な味覚の変化に少し怖くなるが、探究心は止まらない。夫が気持ち悪いと言って食べなかったタニシがスープのだしの麺も気に入った。
適応障害の夫とは対照的に、未知なる文化の魅力を発掘し続ける菖蒲は、つねに北京に対して主導的。行く先々で出会うすべてを傘下におさめるような爽快感がある。(松井雪子/2024.2.3 京都新聞)
※おそらく菖蒲の夫は日本に本社を置く大手の商社かなんかに勤めるエリートサラリーマンであろうと思われます。すでに何か国もの海外勤務を経験してはいるのですが、“慣れる“ ということがありません。菖蒲とは再婚で、先妻との間に二人の子どもがいます。
夫と菖蒲には、二十歳もの年の差があります。菖蒲は銀座の元ホステスで、もちろん好意によるものではあったのですが、夫と結婚したのは、より現実的な理由からでした。彼女の理想は、経済的に盤石な庇護のもとで優雅に暮らし、何より “身軽“ でいることでした。子どもを産んで育てることなど、もってのほかでした。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆綿矢 りさ
1984年京都府京都市左京区生まれ。
早稲田大学教育学部国語国文科卒業。
作品 「インストール」「夢を与える」「蹴りたい背中」「憤死」「勝手にふるえてろ」「かわいそうだね?」「ひらいて」「しょうがの味は熱い」「大地のゲーム」他
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