『我が産声を聞きに』(白石一文)_書評という名の読書感想文
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『我が産声を聞きに』(白石一文), 作家別(さ行), 書評(わ行), 白石一文
『我が産声を聞きに』白石 一文 講談社文庫 2024年2月15日 第1刷発行
生まれ、生き、そして死ぬ。それって一体何だ? “もう一度“ 人生をやり直したかったのは、あなただったのか、それとも - 。

コロナ禍、夫の良治に乞われ、病院に同行した名香子。肺がんの診断を受けた良治は、今日からは好きな人と暮らし治療をすると告げて家を出てしまう。人生をやり直すという一方的な言い分に、二十数年の夫婦生活を思い呆然とする名香子。自らの命と真に向き合ったとき、人は何を選ぶのか。直木賞作家渾身の作。(講談社文庫)
語り手の徳山名香子は、現在47歳。英語教室で非常勤講師をし、それとは別に自宅でも個人レッスンを請け負っています。名香子の夫・良治は現在54歳。大手電機メーカーに勤める優秀なエンジニアでした。一人娘の真理恵は大学生で、今は実家を出て一人暮らしをしています。
問題は何もない・・・・・・・はずでした。家庭は円満で、それはおそらくこの先もそうであり続けるに違いない - 名香子にはそう信じるに足る、自負がありました。なので、最初夫が何を言い出したのか - 言われたことの、意味がわかりません。
本作 『我が産声を聞きに』 は、2020年のコロナ禍1年目の9月から12月にかけてのほぼ3ヵ月間の物語だ。夫に 「自分は間違った人生を生きた。今から本来の運命を生きる」 と、一方的に別れを宣告された妻の話だ。
小説内の出来事が何年何月何日に起こったと明記され、おそらく小説が書かれるのと同時進行で物語が進んでいく。いや、むしろ物語が進むのと同時進行で、執筆が進んでいく。その時代の空気の中でこそ存在する物語なのだ。
コロナ禍の初期ともいえる3ヵ月の物語であることは重要だ。薄く見えない膜で覆われたような、新型ウイルスの正体もよくわからず、緊迫がいつまで続くのかもわからない時期だった。GoTo トラベルキャンペーンという妙な施策もあった。国内の感染者の数は1日数百人のレベルで推移していたが、年末には一気に上がり、2000人を超え3000人を超え、年明けには7000人を超え、11都道府県に2回目の緊急事態宣言が発令された。
その時期、「自分のあるべき運命は」 という問題を突きつけられて翻弄される女性がいた。9月に出版した札幌の國兼よし子の 『枯向日葵』 は物語に入り込み、彼女に波動を与えるのだ。(解説より)
※いきなり登場したかにみえる 「國兼よし子」と彼女が書いた句集には、曰く因縁があります。そして、この物語の土台に関わって、失意の名香子を大いに励ますことになります。(詳細は文庫解説で確認ください)
その句集 『枯向日葵』 の中から三つ。
人工呼吸器外しましょうねクリスマス
大寒波さりげなく致死量
枯向日葵呼んで振り向く奴がいる
どうです? 何だか意味深で、ちょっと捨て鉢ぎみで・・・・・・。八十歳を超えたおばあちゃんの句です。
この本を読んでみてください係数 80/100

◆白石 一文
1958年福岡県福岡市生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒業。
作品 「一瞬の光」「すぐそばの彼方」「僕のなかの壊れていない部分」「心に龍をちりばめて」「ほかならぬ人へ」「翼」「火口のふたり」「一億円のさようなら」「草にすわる」「プラスチックの祈り」他多数
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