『タラント』(角田光代)_書評という名の読書感想文
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『タラント』(角田光代), 作家別(か行), 書評(た行), 角田光代
『タラント』角田 光代 中公文庫 2024年8月25日 初版発行
あきらめた人生のその先へ 著者5年ぶりの長編 待望の文庫化!

与えられた命をどう使うのか。大人の心を揺さぶる再生の物語。
学生時代はボランティアサークルに所属し、国内外で活動しながら、ある出来事で心に深傷を負い、無気力な中年になったみのり。不登校の甥とともに、戦争で片足を失った祖父の秘密や、祖父と繋がるパラ陸上選手を追ううちに、みのりの心は予想外の道へと走りはじめる。あきらめた人生に使命 〈タラント〉 が宿る、慟哭の長篇小説。〈解説〉 奈倉有里 (中公文庫)
義足をつけた選手がバーを越える。絵からすると、選手はどうやら女性らしい。天気は上々で、空は真っ青で・・・・・・・。タラントとは一体、何を意味しているのだろう。この絵とどんな関係があるのだろう。ぼんやりと、そんなことを考えながら読み出しました。
物語は、主人公みのりの1999年からの大学時代、大学卒業後の数年間と、40歳になろうとしている2020年の 「現在」 までの話を中心に語られる。
故郷の香川を出て東京の大学に入学したみのりはボランティアサークルに入り、そこで知り合った玲や翔太と一緒に戦場カメラマンの映画を観て、ある問いに行きあたる - 「もし目の前に血を流して倒れている人がいたら、助けるか、写真を撮るか」。助ける、写真を撮る、そもそも戦場にいきたくない。彼らは少しずつ違う視点の持ちかたをしているけれど、多くの問題意識を共有してもいる。
みのりは自分のことを 「つまらなくて退屈」 な人間だと思い落ち込むが、この自己認識に惑わされちゃいけない。彼女は熟考する人であり、感覚を記憶する人でもある。故郷の 「空」 を感じ、出ていくんだと飛行機に乗ったときの高揚感。ネパールで子供たちが笑ったときの喜び。建設を手伝った学校が数年後に建っていたのを見たときの涙。その感覚と問題意識を少しずつ擦り合わせるようにして、自分がやりたいのは自分たちと遠くの人との 「ふつうを通じ合わせる」 ことなんじゃないかと考える。
難しい課題だ。私たちは遠い国の話を聞いても、困難な状況にいる人の 「ふつう」 の日常がうまく思い描けない。理由は幾重にもある。玲はネパールで現地の子どもたちが 「本当のことを言っていない」 と気づく。説明しづらいのかもしれないし、表現する言葉を知らないのかもしれない。
みのりもヨルダンで難民キャンプの人があらかじめ決まった返答をしていると感じる。そしてフェンスに囲まれたその空間にあって、ラシードの笑顔は奇跡のように感じられてしまう。影のある少年がふいに子どもの顔になる。だが自分がラシードたちを意図せずキャンプから逃がしてしまったことによって彼らが兵隊になるかもしれないと聞き、その危惧はみのりの心に重くのしかかる。
のちにイラクで玲と翔太が拘束され、ムーミンが事故に巻き込まれたことによってさらに気分は蝕まれ、体に爆弾を巻いて笑う少年の写真が最終宣告のようにみのりの心の力を奪ってしまう。
無理もないよ、と読んでいる私は思う。だってみのりがやろうとしていた 「ふつうを通じ合わせる」 というのは、ものすごいことなんだから。それこそ、甥っ子の陸が園児のころにくれた 「百タラント」 が必要になりそうな。(解説より)
※物語はみのり自身の (主に東京での) 人生の変遷とともに、彼女の故郷・香川で暮らす家族、中でも特に祖父の清美と甥の陸との関係を中心に綴られています。何も語らず、謎のままだった祖父・清美の過去が明かされるとき、甥っ子の陸の不登校の理由もまた明らかになります。そしてその頃みのりは、一度は諦めた人生のやり直しに向け、次なる目標にとりかかろうとしています。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆角田 光代
1967年神奈川県横浜市生まれ。
早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。
作品 「空中庭園」「かなたの子」「対岸の彼女」「紙の月」「八日目の蝉」「笹の舟で海をわたる」「坂の途中の家」「ドラママチ」「愛がなんだ」「それもまたちいさな光」「源氏物語」他多数
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