『姑の遺品整理は、迷惑です』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『姑の遺品整理は、迷惑です』垣谷 美雨 双葉文庫 2022年4月17日第1刷

重くて大きい家電製品、出るわ出るわの日用品・・・・・・・ “もったいない” が積み重なって、次世代の悲劇に! 切実な叫びに共感必至! 実家じまい応援小説

郊外の団地で一人暮らしをしていた姑が、突然亡くなった。嫁の望登子は業者に頼むと高くつくからと自力で遺品整理を始める。だが、「安物買いの銭失い」 の姑を甘く見ていた。至る所にぎっしりと詰め込まれた物、物、物。あまりの多さに愕然とし、夫を駆り出すもまるで役に立たない。無駄を溜め込む癖を恨めしく思う望登子だが、徐々に姑の知らなかった顔が見えてきて・・・・・・・。誰もが直面する “人生の後始末” をユーモラスに描く。(双葉文庫)

「遺品整理」ではありませんが、最近あった私の話を聞いてください。

義母は今年92歳になりました。義父は既に亡くなっています。二人いる娘のうち、姉が私の妻で、妹夫婦が実家を継いでいます。

妹夫婦は結婚して約15年間の同居の後、実家近くに売り出された建売住宅を購入し、両親とは別々に暮らすようになっていました。10年ほど前に義父が亡くなった後も、義母は実家で一人暮らしをしています。それが義母の望んだことでした。

実家を新築し、再び親と(義母と) 同居すると妹夫婦が決めたのは、いよいよ義母の世話が日常不可欠となってきたからでした。「一人暮らしが気楽でいい」 と言い張ってきた義母も、ここに至って、ようやく自分の 「老い」 を認めたようでした。

問題は 「引っ越し」 でした。建物の解体前に、実家にあるもの全てを持ち出さないといけません。捨てる物と残す物とを分別し、捨てる物はそれぞれの種類ごとに専用のビニール袋に入れ、指定日毎に集積所まで運び込まなければなりません。タンスや本棚等の粗大ゴミは行政のしかるべき担当課へ確認の後、必要な手続きをしなければ回収してはもらえません。

一方、残す物 - これがまた厄介で、何を基準に、誰の指図で 「残す」 と決めるのか? 「遺品整理」 ではないですが、(本人には申し訳ないのですが) 義母が生きて横にいるだけ、二人の娘(妻は妹に頼まれて毎日のように手伝いに出かけていました) は、見るからに仕分けし辛そうな顔をしていました。義母のひと言で、「無駄に」 残す物が増えてしまうからでした。

遺品整理というのは、やったことがない人が想像する何倍、いや何十倍も骨が折れる。業者に頼むのであればともかく、個人でやると作業量は膨大だ。単にゴミの取りまとめだけでなく、ゴミ捨て場への運搬、さらに粗大ゴミ廃棄の手配などなど、やるべきことが山のように出てくるのだ。そもそも、いちいち分別をしていたら、それだけで何日かかるかわかったものではない。

その辺りのリアルなところは、ぜひ本書で疑似体験してほしいのだが、とにかく経験者として 「ひとりで遺品整理」 は絶対におすすめしない。
望登子だって、絶望的状況を前に業者への依頼を検討する。だが、経済事情がそれを許さなかった。多喜は一銭にもならなさそうな遺品はたんまり残したのに、財産はさっぱりだったのだ。

これはたまらない。ストレスが爆発して当然だ。
しかも、望登子の場合、月とスッポンの比較対象がいた。

実母だ。癌で68歳という若さ (現代の平均年齢を考えれば十分若い) で亡くなった実母は、余命を知ると早々に死に支度を始め、すべてを始末して旅立っていった。
お手本のような死に際を見せた実母と、急死だったとはいえ何一つ片付けずに逝った姑。
望登子が姑を恨めしく思い、悪しざまに言いたくなる気持ちもわかるではないか。(解説より)

但し、後に続けて 「そこで終わらせないのが垣谷美雨という書き手」 だとあるのは、終盤、望登子の、実母と義母に対する見方が微妙に変化していくのを示唆しています。二人が生きた生きざまに、あらためて望登子が思うことでした。

※昨年の半ば辺りから年末にかけ、妹夫婦を中心に姉夫婦(私と妻のこと) と力を合わせしたことは、そう遠くはない将来の 「遺品整理」 の、いわば “前倒し” “予行演習” ではなかったかと。義母が元気でいたので、あくまで 「義母が納得するように」 ではあったのですが。おかげで、応接間にあったソファと縦長の立派な花瓶、かつて妹の息子が使っていた学習机と本棚 (実家にそのままありました)、それと掛け軸一本が廃棄を免れ、わが家のものとなりました。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆垣谷 美雨
1959年兵庫県豊岡市生まれ。
明治大学文学部文学科フランス文学専攻卒業。

作品 「竜巻ガール」「ニュータウンは黄昏れて」「後悔病棟」「農ガール、農ライフ」「老後の資金がありません」「夫の墓には入りません」他多数

関連記事

『絶叫委員会』(穂村弘)_書評という名の読書感想文

『絶叫委員会』穂村 弘 ちくま文庫 2013年6月10日第一刷 「名言集・1 」 「俺、砂糖入れ

記事を読む

『過ぎ去りし王国の城』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文

『過ぎ去りし王国の城』宮部 みゆき 角川文庫 2018年6月25日初版 中学3年の尾垣真が拾った中

記事を読む

『カナリアは眠れない』(近藤史恵)_書評という名の読書感想文

『カナリアは眠れない』近藤 史恵 祥伝社文庫 1999年7月20日初版 変わり者の整体師合田力は

記事を読む

『作家刑事毒島』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『作家刑事毒島』中山 七里 幻冬舎文庫 2018年10月10日初版 内容についての紹介文を、二つ

記事を読む

『憂鬱たち』(金原ひとみ)_書評という名の読書感想文

『憂鬱たち』金原 ひとみ 文芸春秋 2009年9月30日第一刷 金原ひとみと綿矢りさ、二人の若い

記事を読む

『さくら』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『さくら』西 加奈子 小学館 2005年3月20日初版 「この体で、また年を越すのが辛いです。ギブ

記事を読む

『ちょっと今から人生かえてくる』(北川恵海)_書評という名の読書感想文

『ちょっと今から人生かえてくる』北川 恵海 メディアワークス文庫 2019年7月25日初版

記事を読む

『スクラップ・アンド・ビルド』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『スクラップ・アンド・ビルド』羽田 圭介 文芸春秋 2015年8月10日初版 今回の芥川賞の

記事を読む

『しゃもぬまの島』(上畠菜緒)_書評という名の読書感想文

『しゃもぬまの島』上畠 菜緒 集英社文庫 2022年2月25日第1刷 それは突然や

記事を読む

『土に贖う』(河﨑秋子)_書評という名の読書感想文

『土に贖う』河﨑 秋子 集英社文庫 2022年11月25日第1刷 明治30年代札幌

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

『羊は安らかに草を食み』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『羊は安らかに草を食み』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2024年3月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑