『野良犬の値段』上・下 (百田尚樹)_書評という名の読書感想文

『野良犬の値段』上・下 百田 尚樹 幻冬舎文庫 2022年5月15日初版

稀代のエンタメ作家・百田尚樹が、とうとう ミステリー を書いた。誘拐されたのは、6人のみすぼらしいホームレス。身寄りのない彼らを攫った犯人の目的とは -

突如ネット上に現れた謎の 「誘拐サイト」。誘拐されたのは、身寄りのない6人のみすぼらしいホームレスだった。果たしてこれは事件なのか、イタズラなのか。半信半疑の警察、メディア、ネット住民たちを尻目に 「誘拐サイト」 はなんと、被害者たちとは何の関係もない、大手メディアに身代金を要求する。前代未聞の 「劇場型」 誘拐事件が幕を開ける! (上巻/幻冬舎文庫)

ホームレスを人質に、犯人が要求した身代金の金額は法外なものでした。そして、それにも増して驚かされたのは、総額20億円にも上る身代金の、その相手先でした。これは正気の沙汰か、それとも狂言か? 半信半疑の中、事態は徐々に明らかになっていきます。

単行本発売とほぼ同時に本作を手に取った私は、冒頭から突如としてネット上に現れた謎の 「誘拐サイト」 という奇想天外な設定に引き込まれてしまった。

私たちはある人物を誘拐しました。近日、この人物を使って、実験を行います。これは冗談やいたずらではありません

そんな文章とともに、やがては日本中を巻き込む劇場型犯罪の幕が開く。そして、

私たちが誘拐したのは以下の人物です

と、無精ひげに髪の毛もぼさぼさの6人のホームレスがサイトに登場するのである。

読者は思わず “どういうこと?” と首を捻るだろう。誘拐事件とは、誘拐される人間が 「価値ある人間」 でなければ、そもそも成立しないものだからだ。
誘拐犯罪に伴う金銭取引は、たとえば親子関係や雇用関係など、多額のお金を払っても 「取り戻したい存在」 でなければ最初から相手にされない。

しかし、著者は誘拐被害者が 「ホームレス」 という設定から、常識では考えようがない物語に読者を引きずり込んでいく。

最初、これが事件なのか、それともイタズラなのか、何が問題になっていくのか、まったく想像もつかないところから始まっているだけに、読者は頭の整理がつかないまま、ここで一度、立ち止まる。

どうすれば、まったく関係のないホームレスの身代金を要求できるのか。そして、いったい誰に? どういう条件なら、ホームレスへの身代金を払う人間、あるいは組織が出てくるんだろう、ということである。

この誘拐サイトの最初の発見者となったのは、28歳のごく平凡なツイッターが好きな定食屋の店員だ。彼の視点で物語は動き始める。(解説より)

スマートフォンをスワイプすると、現れたのは6人の男たちの顔写真でした。写真の下にはそれぞれに、名前と年齢が書いてあります。

松下和夫(まつした・かずお 60歳)
田中修(たなか・おさむ 58歳)
影山貞雄(かげやま・さだお 57歳)
高井田康(たかいだ・やすし 54歳)
大友孝光(おおとも・たかみつ 53歳)
石垣勝男(いしがき・かつお 45歳)

わずかに写っている服はよれよれで、顔も年齢以上に老けています。どう見ても、普通の社会人とは思えません。

※多くの謎は、第二部(下巻) で明らかになります。果たして犯人の本当の目的は何なのか? 事件は驚くべき結末を迎えます。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆百田 尚樹
1956年大阪府大阪市生まれ。
同志社大学中退。

作品 「永遠の0」「海賊とよばれた男」「夢を売る男」「影法師」「フォルトゥナの瞳」「カエルの楽園」「夏の騎士」「カエルの楽園 2020」他多数

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