『野良犬の値段』上・下 (百田尚樹)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『野良犬の値段』上・下 (百田尚樹), 作家別(は行), 書評(な行), 百田尚樹

『野良犬の値段』上・下 百田 尚樹 幻冬舎文庫 2022年5月15日初版

稀代のエンタメ作家・百田尚樹が、とうとう ミステリー を書いた。誘拐されたのは、6人のみすぼらしいホームレス。身寄りのない彼らを攫った犯人の目的とは -

突如ネット上に現れた謎の 「誘拐サイト」。誘拐されたのは、身寄りのない6人のみすぼらしいホームレスだった。果たしてこれは事件なのか、イタズラなのか。半信半疑の警察、メディア、ネット住民たちを尻目に 「誘拐サイト」 はなんと、被害者たちとは何の関係もない、大手メディアに身代金を要求する。前代未聞の 「劇場型」 誘拐事件が幕を開ける! (上巻/幻冬舎文庫)

ホームレスを人質に、犯人が要求した身代金の金額は法外なものでした。そして、それにも増して驚かされたのは、総額20億円にも上る身代金の、その相手先でした。これは正気の沙汰か、それとも狂言か? 半信半疑の中、事態は徐々に明らかになっていきます。

単行本発売とほぼ同時に本作を手に取った私は、冒頭から突如としてネット上に現れた謎の 「誘拐サイト」 という奇想天外な設定に引き込まれてしまった。

私たちはある人物を誘拐しました。近日、この人物を使って、実験を行います。これは冗談やいたずらではありません

そんな文章とともに、やがては日本中を巻き込む劇場型犯罪の幕が開く。そして、

私たちが誘拐したのは以下の人物です

と、無精ひげに髪の毛もぼさぼさの6人のホームレスがサイトに登場するのである。

読者は思わず “どういうこと?” と首を捻るだろう。誘拐事件とは、誘拐される人間が 「価値ある人間」 でなければ、そもそも成立しないものだからだ。
誘拐犯罪に伴う金銭取引は、たとえば親子関係や雇用関係など、多額のお金を払っても 「取り戻したい存在」 でなければ最初から相手にされない。

しかし、著者は誘拐被害者が 「ホームレス」 という設定から、常識では考えようがない物語に読者を引きずり込んでいく。

最初、これが事件なのか、それともイタズラなのか、何が問題になっていくのか、まったく想像もつかないところから始まっているだけに、読者は頭の整理がつかないまま、ここで一度、立ち止まる。

どうすれば、まったく関係のないホームレスの身代金を要求できるのか。そして、いったい誰に? どういう条件なら、ホームレスへの身代金を払う人間、あるいは組織が出てくるんだろう、ということである。

この誘拐サイトの最初の発見者となったのは、28歳のごく平凡なツイッターが好きな定食屋の店員だ。彼の視点で物語は動き始める。(解説より)

スマートフォンをスワイプすると、現れたのは6人の男たちの顔写真でした。写真の下にはそれぞれに、名前と年齢が書いてあります。

松下和夫(まつした・かずお 60歳)
田中修(たなか・おさむ 58歳)
影山貞雄(かげやま・さだお 57歳)
高井田康(たかいだ・やすし 54歳)
大友孝光(おおとも・たかみつ 53歳)
石垣勝男(いしがき・かつお 45歳)

わずかに写っている服はよれよれで、顔も年齢以上に老けています。どう見ても、普通の社会人とは思えません。

※多くの謎は、第二部(下巻) で明らかになります。果たして犯人の本当の目的は何なのか? 事件は驚くべき結末を迎えます。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆百田 尚樹
1956年大阪府大阪市生まれ。
同志社大学中退。

作品 「永遠の0」「海賊とよばれた男」「夢を売る男」「影法師」「フォルトゥナの瞳」「カエルの楽園」「夏の騎士」「カエルの楽園 2020」他多数

関連記事

『ニューカルマ』(新庄耕)_書評という名の読書感想文

『ニューカルマ』新庄 耕 集英社文庫 2019年1月25日第一刷 電機メーカーの関

記事を読む

『七色の毒』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『七色の毒』中山 七里 角川文庫 2015年1月25日初版 岐阜県出身の作家で、ペンネームが

記事を読む

『じい散歩』(藤野千夜)_書評という名の読書感想文

『じい散歩』藤野 千夜 双葉文庫 2024年3月11日 第13刷発行 読み終えた僕は、胸を温

記事を読む

『ナキメサマ』(阿泉来堂)_書評という名の読書感想文

『ナキメサマ』阿泉 来堂 角川ホラー文庫 2020年12月25日初版 最後まで読ん

記事を読む

『不思議の国の男子』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『不思議の国の男子』羽田 圭介 河出文庫 2011年4月20日初版 年上の彼女を追いかけて、お

記事を読む

『ナオミとカナコ』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『ナオミとカナコ』奥田 英朗 幻冬舎文庫 2017年4月15日初版 望まない職場で憂鬱な日々を送る

記事を読む

『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』 (堀川惠子)_書評という名の読書感想文

『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』 堀川 惠子 講談社文庫 2024年7月12日 第1刷発

記事を読む

『絶叫』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文

『絶叫』葉真中 顕 光文社文庫 2019年3月5日第7刷 - 私を棄てたこの世界を騙

記事を読む

『にぎやかな湾に背負われた船』(小野正嗣)_書評という名の読書感想文

『にぎやかな湾に背負われた船』小野 正嗣 朝日新聞社 2002年7月1日第一刷 「浦」 の駐在だっ

記事を読む

『メタモルフォシス』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『メタモルフォシス』羽田 圭介 新潮文庫 2015年11月1日発行 その男には2つの顔があった

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『アイドルだった君へ』(小林早代子)_書評という名の読書感想文

『アイドルだった君へ』小林 早代子 新潮文庫 2025年3月1日 発

『現代生活独習ノート』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『現代生活独習ノート』津村 記久子 講談社文庫 2025年5月15日

『受け手のいない祈り』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文

『受け手のいない祈り』朝比奈 秋 新潮社 2025年3月25日 発行

『蛇行する月 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『蛇行する月 』桜木 紫乃 双葉文庫 2025年1月27日 第7刷発

『でっちあげ/福岡 「殺人教師」 事件の真相 』(福田ますみ)_書評という名の読書感想文

『でっちあげ/福岡 「殺人教師」 事件の真相 』福田 ますみ 新潮文

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑