『白砂』(鏑木蓮)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/10/28 『白砂』(鏑木蓮), 作家別(か行), 書評(は行), 鏑木蓮

『白砂』鏑木 蓮 双葉文庫 2013年6月16日第一刷

苦労して働きながら予備校に通う、二十歳の高村小夜が自宅アパートで殺害された。中年男性の目撃情報と大金が入金されていることから、援助交際との関わりが捜査線上に浮かぶ。「こんなにつましい暮らしぶりで真面目な彼女がなぜ? 」違和感を抱いた下谷署の刑事・目黒一馬は別の角度から捜査を開始する。小夜の両親はすでに亡く、なぜか祖母は頑なに遺骨を受け取らない。鍵は小夜の故郷にあると見た目黒の執念が、運命に翻弄された女たちの人生を浮き彫りにしていく。最後にたどり着いた、死の裏にある驚愕の真実とは。切なさあふれるミステリー。(双葉文庫)

何だかですねえ。思いのほか評価が低いのは、内容もさることながら、どうやら理由は帯の文章にあるらしい。

あまりに哀しく、美しいラストに 涙腺崩壊!!  切なすぎる結末が心震わす傑作長編ミステリー

とあるのですが、これがいかにも 「盛り過ぎ」 で、ラストは違うし、泣けもしません。というのです。

・・・・・・・まあまあ、(気持ちは)わからぬではありません。しかしです。冷静になってよくよく考えてみてください。(あなたが) これまで読んだ数多の小説で、「泣ける」 と言われて実際に泣いた本がどれほどあったのでしょう。

たとえこの『白砂 (はくしゃ)』 という小説が帯文ほどには泣けないものであったとしても、それはそれで仕方ないのだと思います。「帯」 はもっとも身近な手引きとしては有効ですが、だからといって期待し過ぎてはいけません。

「帯」 は、(基本) 宣伝以外の何ものでもありません。端から 「煽り文句」 とわかった上で、「何割引き」 かで読む必要があります。いくら文句を言ってもそれは後の祭りで、よく確かめもせずに買ったあなたが悪い。そう思い、そこは素直に諦めるしかありません。

文庫の最後のページを見ると、2013年6月16日に第1刷が発行され、昨年 (2015年) の7月には第15刷が発行されています。文庫化なって2年のうちにこれだけ版を重ねているのが、何より読まれている証拠だと思うのですが、それにしては評判がイマイチなのはどういった訳なのか。これが私にはよくわかりません。

確かに陳腐に思えるところがあるにはあります。吉崎昇 (小夜の母親・小百合が愛した唯一人の男性)の戒名が、いくら星座が好きだからといって 「冬星昇空居士」(とうせいしょうくうこじ) はないだろうと。

事件を追う刑事・目黒一馬とその部下である山名勘一とのやり取り、あるいは一馬と娘・アコとの会話などは、もう少し何とかならないものかと思わなくもありません。ボケとツッコミに微妙なズレがあったり、娘に対する一馬の親バカぶりが果てしなく紋切型であったりします。

何より彼らの名前がよくない。一馬は46歳のベテラン刑事で、勘一は駆け出しのペイペイなのですが、普通付けるなら逆じゃないかと思えるほど不釣合に感じます。一人娘のアコは、愛称と思いきや 「愛子」 と書いて 「あこ」 です。「あいこ」 でいいではないですか。

- というような不満があるにはありますが、(その辺りは適当に流しつつ) 核心部分に集中して読むと、これがなかなか読み応えのある話に変化します。

高村小夜という二十歳の、どこまでも倹しい女性の哀れ。亡くなった彼女の母親・小百合が抱えた悲劇的な運命。吉崎昇に救われた彼の妻・好恵が決して明かそうとはしない過去の秘密・・・・・等々。

他にも、小夜が殺害された東京からははるか遠くの、京都・南丹市にある小夜と小百合の故郷・美山に今も残る道理のきかない常識や閉塞感など、読むべきところは多くあるように思います。私は一気に読みました。涙こそ流しはしなかったものの、相応に面白く、小夜の哀れに少しは胸を痛めたりもしたのですから。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆鏑木 蓮
1961年京都市生まれ。
佛教大学文学部国文科卒業。

作品 「東京ダモイ」「屈折光」「時限」「思い出探偵」「真友」「エンドロール」他多数

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