『ロング・アフタヌーン』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文
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『ロング・アフタヌーン』(葉真中顕), 作家別(は行), 書評(ら行), 葉真中顕
『ロング・アフタヌーン』葉真中 顕 中公文庫 2025年9月25日 初版発行
中国で話題沸騰! 「豆瓣2024年度推理小説部門」 第1位

これは、私たちが死なないための戦いだ。巧妙な仕掛けに連なる、衝撃のラスト!
自殺を決意した女が偶然、学生時代の友人と再会する。そんな場面から始まる小説の原稿が、編集者の葛城梨帆宛てに届く。以前新人賞で落選した志村多恵からだった。立場の違う女たちの会話はすれ違い、次第に募る殺意。そして女はある選択をする - 「私をあなたの、共犯者にしてください」。虚実の境が揺らぐ、迫真のミステリー。解説・大久保洋子 (中公文庫)
読みはじめに思う予想とはまるで違う展開に、少し戸惑うかもしれません。そして次に感じるのは、これのどこがミステリーなんだと。誰もがそう思うであろう、ミステリーらしからぬミステリーです。そしてもうひとつ。信じられないかもしれませんが、著者はまぎれもなく男性です。女性作家が書いた話ではありません。
『ロング・アフタヌーン』 は、出版社に勤める編集者・葛城梨帆のもとに送付された小説 『長い午後』 と、それを読む梨帆自身の物語を交互に展開しながら、梨帆が一人の女性として、また編集者としての苦しみに出口を見出すまでを描いている。
『長い午後』 の作者は以前新人賞の最終選考まで残りながら、選考委員の理解を得られずに賞を逃した短編小説 『犬を飼う』 の作者、志村多恵だった。七年という時を隔てて再び自分に原稿を送ってきた多恵の意図を測りかねつつ、梨帆はその私小説的な作品を読み始めるが、読み進むうちに 「これは私の物語だ」 と感じるようになる。
『長い午後』 の作者である多恵は、電話の声の主として節々に登場する以外、ラストシーンまで姿を現わさない。にもかかわらず、彼女の人生は 『長い午後』 の語りを通して読者の前に浮き彫りになるかのようである。それにともなって梨帆自身の人生も浮き彫りになっていく。
二人の女性の心理描写はきわめて細やかで、かつ飽きさせない。女性の肉体的な辛さ、職場に設けられた 「ガラスの天井」、結婚・妊娠・出産をめぐる周囲の声と視線。家父長制的価値観を内面化せざるを得なかった者とそうできない者の双方が持つ苦しみ、分断が、手に取るように語られる。作者はなぜこれほど女性の心理や痛みを理解しているのか。実を言うと、筆者は葉真中氏が本当は女性なのではないかと何度も疑い、検索までしてしまった。
さらに、作中にはもう一つの物語が登場する。七年前に梨帆が読んだ 『犬を飼う』 である。この短篇は、『長い午後』 の中では語り手の 「私=ター坊」 が書いた小説という設定になっている。三重の入れ子構造になっているのだが、三つの物語はそれぞれ別の位相にありながら、相互に連関し、影響を及ぼし合っている。(解説より)
※解説に、(小説は) 「『犬を飼う』 の記号的な人物描写から 『長い午後』 へ、さらに梨帆の物語へと、語りの位相が現実に近づくごとに、女性の物語は奥行きを増し、鮮やかなディテールをともなう色彩豊かなものとなっていく」 とあります。はたしてあなたは物語をこの通りに、よく理解しながら読み終えることができるでしょうか。そして面白かった、驚いたと言えるでしょうか。残念ですが、私は言えません。
この本を読んでみてください係数 80/100

◆葉真中 顕
1976年東京都生まれ。
東京学芸大学教育学部中退。
作品 「絶叫」「ロスト・ケア」「ブラック・ドッグ」「コクーン」「政治的に正しい警察小説」「凍てつく太陽」「灼熱」「Blue/ブルー」「そして、海の泡になる」他
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