『いやしい鳥』(藤野可織)_書評という名の読書感想文

『いやしい鳥』藤野 可織 河出文庫 2018年12月20日初版

いやしい鳥 (河出文庫)

ピッピは死んだ。いや殺された。いや・・・・・・・だんだんと鳥に変身していく男と、その男に復讐を誓う 「俺」 の惨劇を描く表題作、幼い頃に母親を “恐竜に” 喰われたトラウマをめぐる 「溶けない」、あまりにも凶暴なその花 「胡蝶蘭」・・・・・・・グロテスクで残酷で、おかしな愛と奇想に満ちた、芥川賞作家の原点にして珠玉の作品集。(河出文庫)

(第103回) 文學界新人賞受賞作

藤野可織のデビュー作 「いやしい鳥」 を読みました。70ページ余りの作品で、わき目もふらず一気に読みました。

ただ、何が為にこんな話を書いたのか - それはわかりません。そのころ著者に何があったのか。それが知りたいと思います。

知らずに読むと、これが二十歳半ばの女性が書いたものとはとても思えません。

それはK町のある安い居酒屋での出来事で、「俺」 はその男を、たまたま善意で助けただけだったのです。

飲み過ぎて正体を失くしたアカの他人のトリウチを、介抱し、タクシーに乗せ、自分の家に連れて帰ったまではよかったものの、トリウチは朝になってもまるで帰ろうとしません。

家に居ついたあげく、「俺」 がほんの少し家を空けた隙に、あろうことかトリウチは、妻とは離婚し、独り暮らしの 「俺」 が何より大事にしていたオカメインコのピッピを、

生きた鳥を人の家で飼われている鳥を、「うまそうだったからつい」 と、そのまま生で 「かぶりついた」 のでした。そしてそのうちトリウチは、次第次第に鳥へと変化していきます。顔から羽根が生え、見るとそれはピッピの羽根で、羽根はやがて全身へと及んでいきます。

時の状況は以下のようなものです。

・・・・・・・ トリウチの顔からは次々に羽根が湧いて出て、それどころか出てくる量はどんどん増えるし、あっという間にあいつの人間らしい皮膚の部分は、見るのも難しいくらいになってきた。というより、あいつの顔がピッピそのものになってきた。

顎が羽毛に消え、次いで喉仏が消え、鎖骨が消え、Tシャツの上に出てる部分はすべて鳥のものになった。頭髪は冠羽に変わってた。黄色い羽毛がしゅっと立った。上唇はきゅうと前にせり出し、みるみる角質化してくちばしに、頭の形そのものも人間のものではなくなってた。目が前じゃなくて横にずずずっとずれてまん丸に見開き、俺を見上げた。(中略)

トリウチはまっすぐに立って俺を見た。まっすぐに。でもそれじゃ見えなかったみたいで、あいつ、首をかくっと傾けて真横についてる目を俺に向けた。その仕草はピッピそっくりだった。

そのときぽんと頬にオレンジ色の丸が浮き出た。それでもう完璧に奴の頭部はルチノー系のオカメインコだった。(P55.56)

ほぼオカメインコと化したトリウチは、次に、「俺」 に狙いを定めます。今度は、「俺」 を喰おうと企んでいます。

※結局のところ、何が言いたいのかはわかりません。ただ、「俺」 が縷々語る半ば言い訳じみた己の心情は妙にリアルで、おかしみがあり、捨て鉢の狂気に満ち充ちて、やけに面白いのでした。

この本を読んでみてください係数 85/100

いやしい鳥 (河出文庫)

◆藤野 可織
1980年京都府京都市生まれ。
同志社大学大学院美学および芸術学専攻博士課程前期修了。

作品 「爪と目」「おはなしして子ちゃん」「ファイナルガール」「ドレス」など

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