『雨のなまえ』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『雨のなまえ』(窪美澄), 作家別(か行), 書評(あ行), 窪美澄

『雨のなまえ』窪 美澄 光文社文庫 2022年8月20日2刷発行

妻の妊娠中、逃げるように浮気をする男。パート先のアルバイト学生に焦がれる中年の主婦。不釣り合いな美しい女と結婚したサラリーマン。幼なじみの少女の死を引きずり続ける中学教師。まだ小さな息子とふたりで生きることを決めた女。ヒリヒリするほど生々しい5人の物語

女は小さな声で、マリモ、と言った - 。家具ショップで働き、妊娠中の妻と何不自由のない生活を送る悠太郎。ある日店に訪れた女性客と二度目に会った時、彼は関係を持ち、その名を知る。妻の出産が迫るほど、現実から逃げるように、マリモとの情事に溺れていくが・・・・・・・。(「雨のなまえ」) 答えのない 「現代」 を生きることの困難と希望。降りそそぐ雨のように心を穿つ五編の短編集。(光文社文庫)

[目次]

雨のなまえ
記録的短時間大雨情報
雷放電
ゆきひら
あたたかい雨の降水過程
  解説 篠田節子

※印象に残る二作品 (解説より)

雨のなまえ
「雨のなまえ」は親切・安直な説明を排し、丁寧に描写を積み重ねてテーマを語ろうした小説らしい小説だ。

父親になることから逃げたい夫。「いくら理屈をつけたって、そんなの絶対許せない。そんなときに不倫なんて最っ低」 というのは、健全な反応であり、まさにその通りなのだが、人の心はどこまでも不可解だ。

作者は男の生い立ちを語り、夫婦の間に厳然と存在する階層の違いとそこで醸成された感性の違いを描き出すことで、最初から無理のある結婚生活がすでに破綻していることを示す。そして妊娠を最後の砦として何とか男をつなぎ止めようとする妻によって、妻と家庭と人生そのものに追い詰められていく男の姿が、降りしきる雨と似たもの同士の悲劇的で腐敗臭を放つ情事の中に浮かび上がってくる。

ゆきひら
陰惨ないじめの実態と、かつてそれを傍観し、幼なじみの少女の死を阻止できなかった男の罪悪感と葛藤、混乱を一切の妥協無しに描き出した 「ゆきひら」。男性教師と思春期の女子中学生との、強風の痩せ尾根を行くような危うい関係性を絡ませ、理不尽な結末へと突き進んでいく。
読者がしたり顔をしてこの男性教師や他の登場人物を批評し、断罪することを拒むような鋭い切っ先を持った一編だ。

二編それぞれに、おそらく読者が思いもしない結末が待ち受けています。追い詰められた男性がした行動は、救われた女子中学生が叫んだのは・・・・・・・。そのやりきれなさに、あなたは何を思うでしょう。そこには 「安易な慰めも救いもない。絶望の物語に深くうなずく」 (解説中にあることば) しかありません。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆窪 美澄
1965年東京都稲城市生まれ。
カリタス女子中学高等学校卒業。短大中退。

作品 「晴天の迷いクジラ」「アニバーサリー」「ふがいない僕は空を見た」「さよなら、ニルヴァーナ」「アカガミ」「トリニティ」「夜に星を放つ」他多数

関連記事

『続々・ヒーローズ (株)!!! 』(北川恵海)_仕事や人生に悩む若いあなたに

『続々・ヒーローズ (株)!!! 』北川 恵海 メディアワークス文庫 2019年12月25日初版

記事を読む

『宇喜多の捨て嫁』(木下昌輝)_書評という名の読書感想文

『宇喜多の捨て嫁』木下 昌輝 文春文庫 2017年4月10日第一刷 第一話  表題作より 「碁

記事を読む

『てとろどときしん』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『てとろどときしん』黒川博行 角川文庫 2014年9月25日初版 副題は 「大阪府警・捜査一課事

記事を読む

『田舎でロックンロール』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『田舎でロックンロール』奥田 英朗 角川書店 2014年10月30日初版 これは小説ではありませ

記事を読む

『 i (アイ)』(西加奈子)_西加奈子の新たなる代表作

『 i (アイ)』西 加奈子 ポプラ文庫 2019年11月5日第1刷 『サラバ!

記事を読む

『相棒に気をつけろ』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『相棒に気をつけろ』逢坂 剛 集英社文庫 2015年9月25日第一刷 世間師【せけんし】- 世

記事を読む

『赤い部屋異聞』(法月綸太郎)_書評という名の読書感想文

『赤い部屋異聞』法月 綸太郎 角川文庫 2023年5月25日初版発行 ミステリ界随

記事を読む

『氷の致死量』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『氷の致死量』櫛木 理宇 ハヤカワ文庫 2024年2月25日 発行 『死刑にいたる病』 の著

記事を読む

『月の砂漠をさばさばと』(北村薫)_書評という名の読書感想文

『月の砂漠をさばさばと』北村 薫 新潮文庫 2002年7月1日発行 9歳のさきちゃんと作家のお

記事を読む

『紙の月』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『紙の月』 角田 光代  角川春樹事務所 2012年3月8日第一刷 映画 『紙の月』 の全国ロー

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『悪逆』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『悪逆』黒川 博行 朝日新聞出版 2023年10月30日 第1刷発行

『エンド・オブ・ライフ』(佐々涼子)_書評という名の読書感想文

『エンド・オブ・ライフ』佐々 涼子 集英社文庫 2024年4月25日

『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』(清武英利)_書評という名の読書感想文

『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』清武 英利 

『メイド・イン京都』(藤岡陽子)_書評という名の読書感想文

『メイド・イン京都』藤岡 陽子 朝日文庫 2024年4月30日 第1

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑