『秋山善吉工務店』(中山七里)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/09 『秋山善吉工務店』(中山七里), 中山七里, 作家別(な行), 書評(あ行)

『秋山善吉工務店』中山 七里 光文社文庫 2019年8月20日初版

父・秋山史親を火災で失った雅彦と太一、母・景子。止むを得ず史親の実家の工務店に身を寄せるが、彼らは昔気質の祖父・善吉が苦手。それでも新生活を始めた三人は、数々の思いがけない問題に直面する。しかも、刑事・宮藤は火災事故の真相を探るべく秋山家に接近中。だが、どんな困難があろうと、善吉が敢然と立ちはだかる! 家族愛と人情味溢れるミステリー。(光文社文庫)

目次
1 太一、奮闘する
2 雅彦、迷走する
3 景子、困惑する
4 宮藤、追求する
5 善吉、立ちはだかる

墨田区にあった太一の自宅が全焼したのはつい先月のことだ。出火原因は未だに不明だが、家人が寝静まった夜半に出た火はそのまま二階部分を灰燼に帰し、両隣の一部にも類焼が及んだ。
火災保険に入っていたものの、家主と隣宅の慰謝料で給付金のほとんどは消えてしまう見込みとなっている。景子と二人の息子は九死に一生を得たが、家財の多くが焼失してしまった。
いや、家財どころではない。秋山家は一家の大黒柱である史親をも失った。出火場所と目されている二階部屋に寝ていた史親は逃げ遅れてしまい、焼跡から半ば炭化した状態で発見されたのだ。
着の身着のままで焼け出された秋山母子はしばらくウィークリーマンションで夜露をしのいでいたが、いつまでもそんな生活を続けられるはずもない。雅彦と太一には新学期も控えている。
そんな状況だったので、史親の実家から同居の誘いがあった時、景子は二つ返事で承諾した。実家は同じ墨田区内にあり、一人息子の史親が独立した後は善吉と春江夫婦だけなので部屋も余っている。もちろん景子の実家に転がり込むことも考えたが、そちらは愛知県の田舎にあり、子供の進学問題を考慮すると腰が引ける。結局、渡りに舟とばかり善吉の好意に甘えた形となる。

だが、返事をしてから景子と雅彦は遅ればせながら思い出した。
自分たちが長らく史親の実家に立ち寄らなかったのは、家長である善吉が非常に苦手なタイプだったからだ。
同居すれば、否応なく毎日その苦手な人間と顔を合わせることになる。だが経済的な問題は感情に優先する。預金通帳の残高を穴の開くほど見続けていた景子に、もはや選択の余地はなかったのだ。(第一話 「太一、奮闘する」 より)

- という事情のもとに物語は始まってゆきます。

読むと随分悲惨に思うかもしれません。でも、大丈夫。ここから続く話の展開はむしろコミカルで、清々しくさえあります。何だかだと事件は起きますが、すべからくそれを丸く治めてしまうのが秋山善吉その人でした。八十歳の、今も現役の大工である善吉は伊達に歳を取っていません。

太一の奮闘、雅彦の迷走、景子の困惑と進み、いよいよ話は (本来の) ミステリーの色合いを濃くしてゆきます。

三人が善吉の家に身を寄せることになったそもそもの理由 - 景子の夫であり、善吉夫婦の一人息子でもあった史親を失った火災。その原因は未だ不明で、あれは単なる事故ではなく、何者かが仕組んだ放火ではないかと。そう考える人物がいます。

史親に対し、死んでほしいと願う人物がいたのではないか? 刑事の宮藤は、未だその考えを捨て切れずにいます。史親が死ぬことで得する人物がきっといると固く信じています。

善吉は基本無口で、滅多なことでは口を開きません。三人に対しても、余計なことは一切言いません。にもかかわず、誰にも増して三人を守ろうとしています。それはもしかすると、死んだ息子に向けた無念さよりも、なお強いものかも知れません。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「贖罪の奏鳴曲」「追憶の夜想曲」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「嗤う淑女」「連続殺人鬼カエル男」他多数

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