『選んだ孤独はよい孤独』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『選んだ孤独はよい孤独』山内 マリコ 河出書房新社 2018年5月30日初版

地元から出ないアラサー、女子が怖い高校生、仕事が出来ないあの先輩・・・・・・・誰もが逃れられない「生きづらさ」に寄り添う、人生の切なさとおかしみと共感に満ちた19編。情けなくも愛すべき男たちの「孤独」でつながる物語。「女のリアル」の最高の描き手・山内マリコが「男のリアル」をすくいあげた新たなる傑作! (「BOOK」 データベースより)

若い女性作家だからといって侮ってはなりません。ここには世の男性たちの、できれば 「表沙汰にはしたくない」、切なくも情けない 「諸事情」 についてが綴られています。他人事なら笑えるものの、 おそらくは多くの男性が身につまされる、そんな話が羅列してあります。

その指摘があまりにシャープで、笑うより他なすすべがありません。

微笑みながらジャブを打たれ、
気づけばノックアウトに持ち込まれる、
そういう作品集です。- 武田砂鉄(ライター) とは、けだし至言であります。

選んだ孤独はよい孤独  -  の 「よい孤独」 とは。

これはフランスの言い習わしで、人々から見捨てられていると感じることと、世評を気にせず自己のうちに深く沈潜することとは異なるということ。ロンリネス(ひとりぼっちの寂しさ)とソリチュード(孤独)とはまったく別のものであるということ。

よい孤独とは、たとえば、町なかで人々と一緒に暮らしながら、ひっそりとした一人の時間を大事にする生き方 - といったようなことを意味します。「生きづらさ」 に悩み、「ひとりぼっちの寂しさ」 に苛まれ、どうしようもなく佇んでいるあなた。あなたにこそ読んでほしいと思う一冊です。

これを読み、今の孤独におもねることなく、別の、よりよい孤独とめぐり会わんことを切に祈っています。孤独である(あろうとする) ことは、決して不幸ということではないのですから。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆山内 マリコ
1980年富山県富山市生まれ。
大阪芸術大学映像学科卒業。

作品 「アズミ・ハルコは行方不明」「ここは退屈迎えに来て」「さみしくなったら名前を呼んで」「かわいい結婚」「パリ行ったことないの」など

関連記事

『いつか、アジアの街角で』(中島京子他)_書評という名の読書感想文

『いつか、アジアの街角で』中島 京子他 文春文庫 2024年5月10日 第1刷 あの街の空気

記事を読む

『ぼくは勉強ができない』山田詠美_書評という名の読書感想文

『ぼくは勉強ができない』 山田 詠美  新潮社 1993年3月25日発行 山田詠美の小説を大別す

記事を読む

『溺レる』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『溺レる』川上 弘美 文芸春秋 1999年8月10日第一刷 読んだ感想がうまく言葉にできない

記事を読む

『雨のなまえ』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

『雨のなまえ』窪 美澄 光文社文庫 2022年8月20日2刷発行 妻の妊娠中、逃げ

記事を読む

『赤と白』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『赤と白』櫛木 理宇 集英社文庫 2015年12月25日第一刷 冬はどこまでも白い雪が降り積もり、

記事を読む

『ある一日』(いしいしんじ)_書評という名の読書感想文

『ある一日』いしい しんじ 新潮文庫 2014年8月1日発行 「予定日まで来たというのは、お祝

記事を読む

『あのこは貴族』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『あのこは貴族』山内 マリコ 集英社文庫 2019年5月25日第1刷 TOKYO

記事を読む

『愛なんて嘘』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『愛なんて嘘』白石 一文 新潮文庫 2017年9月1日発行 結婚や恋愛に意味なんて、ない。けれども

記事を読む

『逢魔が時に会いましょう』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『逢魔が時に会いましょう』荻原 浩 集英社文庫 2018年11月7日第2刷 大学4

記事を読む

『十六夜荘ノート』(古内一絵)_書評という名の読書感想文

『十六夜荘ノート』古内 一絵 中公文庫 2017年9月25日初版 英国でこの世を去った大伯母・玉青

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『血腐れ』(矢樹純)_書評という名の読書感想文

『血腐れ』矢樹 純 新潮文庫 2024年11月1日 発行 戦慄

『チェレンコフの眠り』(一條次郎)_書評という名の読書感想文

『チェレンコフの眠り』一條 次郎 新潮文庫 2024年11月1日 発

『ハング 〈ジウ〉サーガ5 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ハング 〈ジウ〉サーガ5 』誉田 哲也 中公文庫 2024年10月

『Phantom/ファントム』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文 

『Phantom/ファントム』羽田 圭介 文春文庫 2024年9月1

『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』(谷川俊太郎)_書評という名の読書感想文 (再録)

『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』谷川 俊太郎 青土社 1

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑