『とかげ』(吉本ばなな)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/24
『とかげ』(吉本ばなな), 作家別(や行), 吉本ばなな, 書評(た行)
『とかげ』吉本 ばなな 新潮社 1993年4月20日発行
注:この小説が発刊された時点での表記は 「吉本ばなな」 です。
私のような年齢の方だと、吉本ばななと言えば父親の吉本隆明の名前抜きでは語れない人物ではないでしょうか。昔々大学生だった頃、吉本隆明と言えば当時多くのインテリ、もしくはインテリ気取りの若者にとっては一種の教祖的存在でした。1968年に河出書房新社から刊行された 『共同幻想論』 は、彼等にとってまさしく 「聖書」 的な本でした。
人が人で在ることの根源を論じた思想家を父親に持つ娘が、後年同世代の女性から圧倒的な支持を集める小説家になった血筋をどうしても思わずにはいられません。
単純に親子として似ているというようなことではなく、周囲に漂う文学的な空気を嗅ぎ取り培った結果、娘が父親と同じ文筆業を選んだ経緯と才能に感心せざるを得ません。
『とかげ』 は6編からなる短編集です。解説では、それぞれ 「癒し」 をテーマにした作品だということですが、この人の作品には “湿った抒情感“ というものはきわめて希薄で、運命のようなもの、一人の孤独をさらに掘り下げようとする小説が圧倒的に多いように思いますが、そこには独自の匂いというか空気感があります。透明で、どちらかと言えば乾燥して落ち着いています。
例えば、表題作のラスト。とかげ (病院で働く男性が、恋をする相手の女性につけた愛称) が静かに眠りにつく場面での一行。子供のように眠るとかげを前に、「私はそれをしばらく眺め、2人の子供時代のために数分間泣いた。」 と閉じます。
読者は、たぶん、これにやられるのでしょう。
何れも短い作品ばかりで中身を書くとほぼネタバレになりますので省略しますが、著者の作品を初めて読もうと思う方にも適当な一冊だと思います。強烈なインパクトこそありませんが、著者が伝えようとする本質はどのストーリーからも明確に読み取れます。
非現実的な設定などもありますが、その設定を着想した作者の思惑を想像しながら読んでみてください。嫌味がないので、すらすら読めるはずです。
※この小説はリメイクされて、14年後に 『ひとかげ』 という一冊の単行本になります。進化した 「とかげ」 をみてみたいという方は、併せて読んでみてください。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆よしもと ばなな
1964年東京都文京区生まれ。本名:吉本真秀子(よしもとまほこ)
日本大学芸術学部文芸学科卒業。
父は批評家、詩人の吉本隆明。姉は漫画家のハルノ宵子。
作品 「キッチン」「ムーンライト・シャドウ」「うたたか/サンクチュアリ」「TUGUMI」「アムリタ」「不倫と南米」「ハゴロモ」「デッドエンドの思い出」他多数
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