『幸福な遊戯』(角田光代)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『幸福な遊戯』(角田光代), 作家別(か行), 書評(か行), 角田光代

『幸福な遊戯』角田 光代 角川文庫 2019年6月20日14版

ハルオと立人と私。恋人でもなく家族でもない3人が始めた共同生活。この生活の唯一の禁止事項は同居人同士の不純異性行為- 本当の家族が壊れてしまった私にとって、ここでの生活は奇妙に温かくて幸せなものだった。いつまでも、この居心地いい空間に浸っていたかったのに・・・・・・・
表題作幸福な遊戯の他2編を収録。角田光代の原点、記念碑的デビュー作。解説・永江朗 (角川文庫)

※本書は1991年9月、福武書店より刊行された単行本を文庫化したものです。

角田光代の本なら、おそらく40冊は読みました。初めて読んだのは 『紙の月』 でした。数多ある傑作を差し置いて私が好きなのは、「山田うどん」 の宣伝用に書かれた 「おまえじゃなきゃだめなんだ」 という短い作品です。(ぜひ一度読んでみてください)

「デビュー作は何だったのか」 と思う間もなく長い月日が経ちました。”今更ながら感” は否めませんが、そうとわかれば読んでみようと思うではないですか。

「幸福な遊戯」 は男二人女一人の計三人が共同生活をする話です。都会の一人暮らしでいちばん大変なのは家賃です。三人で一軒家を借りれば、一人あたりの家賃の負担は少なく、なおかつ快適な住空間が手に入れられます。(後略)

しかし、赤の他人で、しかも性別も違う三人が一緒に住むのですから、それなりのストレスもあります。だからこの家のルールは 「同居人同士の不純異性行為禁止」。ところが、共同生活三か月目にして、「私」 とハルオはこのルールを破ってしまいます。「幸福な遊戯」 はこんなふうに始まります。(解説より)

ハルオは5年前に高校を出て上京し、高校の同級生である立人のアパートに転がり込みました。進学するためでも就職するためでもなく、なんとなく東京にあこがれてやって来ました。やりたいことがあったわけでなく、というか、行けばやりたいことがあるだろうと漠然とした期待を抱いて東京へやって来たのでした。ところが、やりたいと思うことは見つからず、これといったことがないまま5年が経ってしまったのでした。

最初 「私」 は、明らかにハルオを見下しています。

※この小説が書かれた頃の著者の年齢を思うと、実際はどうであれ、心情的にはほぼ角田光代本人のことではないかしらと。後々の作品を読むにつけ、そう思えてなりません。

彼女がどんな家で育ち、どんなことを考えながら大きくなったのかはわかりませんが、少女の頃の角田光代は、意外にも “厭世的” であったらしい。溢れるほどの才能を持ちながら、それでも右往左往していたようです。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆角田 光代
1967年神奈川県横浜市生まれ。
早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。

作品 「空中庭園」「かなたの子」「対岸の彼女」「紙の月」「八日目の蝉」「笹の舟で海をわたる」「坂の途中の家」「ドラママチ」「愛がなんだ」「それもまたちいさな光」他多数

関連記事

『カウントダウン』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『カウントダウン』真梨 幸子 宝島社文庫 2020年6月18日第1刷 半年後までに

記事を読む

『猫を拾いに』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『猫を拾いに』川上 弘美 新潮文庫 2018年6月1日発行 誕生日の夜、プレーリードッグや地球外生

記事を読む

『雨のなまえ』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

『雨のなまえ』窪 美澄 光文社文庫 2022年8月20日2刷発行 妻の妊娠中、逃げ

記事を読む

『破蕾』(雲居るい)_書評という名の読書感想文

『破蕾』雲居 るい 講談社文庫 2021年11月16日第1刷 あの 冲方 丁が名前

記事を読む

『父からの手紙』(小杉健治)_書評という名の読書感想文

『父からの手紙』小杉 健治 光文社文庫 2018年12月20日35刷 家族を捨て、

記事を読む

『金賢姫全告白 いま、女として』(金賢姫)_書評という名の読書感想文

『金賢姫全告白 いま、女として』金 賢姫 文芸春秋 1991年10月1日第一刷 この本を読んで、

記事を読む

『夜の公園』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『夜の公園』川上 弘美 中公文庫 2017年4月30日再版発行 「申し分のない」

記事を読む

『業苦 忌まわ昔 (弐)』(岩井志麻子)_書評という名の読書感想文

『業苦 忌まわ昔 (弐)』岩井 志麻子 角川ホラー文庫 2020年6月25日初版

記事を読む

『小島』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文

『小島』小山田 浩子 新潮文庫 2023年11月1日発行 私が観ると、絶対に負ける

記事を読む

『ちょっと今から仕事やめてくる』(北川恵海)_書評という名の読書感想文

『ちょっと今から仕事やめてくる』北川 恵海 メディアワークス文庫 2015年2月25日初版 こ

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『アイドルだった君へ』(小林早代子)_書評という名の読書感想文

『アイドルだった君へ』小林 早代子 新潮文庫 2025年3月1日 発

『現代生活独習ノート』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『現代生活独習ノート』津村 記久子 講談社文庫 2025年5月15日

『受け手のいない祈り』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文

『受け手のいない祈り』朝比奈 秋 新潮社 2025年3月25日 発行

『蛇行する月 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『蛇行する月 』桜木 紫乃 双葉文庫 2025年1月27日 第7刷発

『でっちあげ/福岡 「殺人教師」 事件の真相 』(福田ますみ)_書評という名の読書感想文

『でっちあげ/福岡 「殺人教師」 事件の真相 』福田 ますみ 新潮文

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑