『誰かが見ている』(宮西真冬)_書評という名の読書感想文

『誰かが見ている』宮西 真冬 講談社文庫 2021年2月16日第1刷

誰かが見ている (講談社文庫)

問題児の夏紀に手を焼く千夏子の唯一の楽しみは、育児ブログを偽物の幸せで塗り固め、かりそめの優越感に浸ること。だがある夕方、保育園から一本の電話が。「夏紀ちゃんがいなくなりました」。刹那、千夏子は 〈彼女〉 が夏紀を連れ去ったと確信し - 。最後に暴かれる千夏子の最大の “嘘” に驚愕する衝撃サスペンス! 第52回メフィスト賞受賞作。(講談社文庫)

この物語に登場する女性たちは、皆が皆、自分が思う “理想の女性” になれずに悩んでいます。自分のことはもちろん、夫や結婚すると決めた男性に対しても。産んだ子供や、産めずにいる状況に対しても。

そのこと自体は、何もおかしなことではありません。おそらくは、世の女性の多くが (大なり小なり) 似た思いでいることでしょう。但し、(悩みはするものの) 大概はこれが現実だからと諦めてもいます。

ところが、千夏子とやがて千夏子と深い因縁で結ばれることになる女性たちは、今在る現実を不当に感じ、諦めきれずにいます。思うように事が成し遂げられず、悪戦苦闘しています。嘘をつき、何かに縋り、そこから逃れようとしています。

見栄や意地の張り合い。理解のない夫に的外れな夫。可愛げのない子ども。セックスレスでは土台無理な不妊治療に、ハラスメントだらけの職場から逃れたい一心で決めた結婚・・・・・・・折に触れ、彼女らは何かしら 「思い違い」 をしています。

この頃の千夏子の唯一の生きがいは、架空の世界で別の自分、思い描いた理想の女性になって、ありもしない、本心では思ってもいないことを、言いたいままに呟くことでした。嘘で固めたSNSだけが、生きる証しになっています。

千夏子 彼女は、実の子である夏紀へのある “違和感” から、可愛がれずに苦しんでいます。そして、それを夫に隠して暮らしています。

結子 彼女は子供が欲しいのですが、夫が非協力的で悩んでいます。37歳という年齢に、焦りを感じています。

春花 保育士の彼女は職場の人間関係に疲れ、ハイスペックな恋人との将来に縋っています。結婚さえすれば仕事が辞められる。ここから逃げられる。そのことだけを願っています。

柚季 彼女が千夏子と知り合ったのは、偶然でした。柚季は他の町から引っ越してきて、豪華なタワーマンションの二十三階で暮らしています。柚季の部屋を訪ねるうち、千夏子はあることを思いつきます。彼女にとってそれは、とびっきりのアイデアでした。

- と、これが運の尽き。ここから全て (の嘘) がバレていきます。

この本を読んでみてください係数  85/100

誰かが見ている (講談社文庫)

◆宮西 真冬
1984年山口県生まれ。

作品 本書 『誰かが見ている』 で第52回メフィスト賞を受賞し、デビュー。他の著作に 『首の鎖』 『友達未遂』。

関連記事

『推定脅威』(未須本有生)_書評という名の読書感想文

『推定脅威』未須本 有生 文春文庫 2016年6月10日第一刷 推定脅威  

記事を読む

『あの日、君は何をした』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

『あの日、君は何をした』まさき としか 小学館文庫 2020年7月12日初版 あの日、君は何

記事を読む

『アルテーミスの采配』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『アルテーミスの采配』真梨 幸子 幻冬舎文庫 2018年2月10日初版 アルテーミスの采配 (

記事を読む

『どろにやいと』(戌井昭人)_書評という名の読書感想文

『どろにやいと』戌井 昭人 講談社 2014年8月25日第一刷 どろにやいと  

記事を読む

『月の砂漠をさばさばと』(北村薫)_書評という名の読書感想文

『月の砂漠をさばさばと』北村 薫 新潮文庫 2002年7月1日発行 月の砂漠をさばさばと (新潮文

記事を読む

『奴隷小説』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『奴隷小説』桐野 夏生 文芸春秋 2015年1月30日第一刷 奴隷小説  

記事を読む

『太陽の坐る場所』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『太陽の坐る場所』辻村 深月 文春文庫 2011年6月10日第一刷 太陽の坐る場所 (文春文庫

記事を読む

『絶唱』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『絶唱』湊 かなえ 新潮文庫 2019年7月1日発行 絶唱 (新潮文庫) 悲しみしかな

記事を読む

『みんな邪魔』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『みんな邪魔』真梨 幸子 幻冬舎文庫 2011年12月10日初版 みんな邪魔 (幻冬舎文庫)

記事を読む

『いちご同盟』(三田誠広)_書評という名の読書感想文

『いちご同盟』三田 誠広 集英社文庫 1991年10月25日第一刷 いちご同盟 (集英社文庫)

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『ウィステリアと三人の女たち』(川上未映子)_書評という名の読書感想文

『ウィステリアと三人の女たち』川上 未映子 新潮文庫 2021年5月

『私の友達7人の中に、殺人鬼がいます。』(日向奈くらら)_書評という名の読書感想文

『私の友達7人の中に、殺人鬼がいます。』日向奈 くらら 角川ホラー文

『ペインレス あなたの愛を殺して 下』(天童荒太)_書評という名の読書感想文

『ペインレス あなたの愛を殺して 下』天童 荒太 新潮文庫 2021

『おもかげ』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文

『おもかげ』浅田 次郎 講談社文庫 2021年2月17日第4刷発行

『ぼくがきみを殺すまで』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

『ぼくがきみを殺すまで』あさの あつこ 朝日文庫 2021年3月30

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑