『連鎖』(黒川博行)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/06
『連鎖』(黒川博行), 作家別(か行), 書評(ら行), 黒川博行
『連鎖』黒川 博行 中央公論新社 2022年11月25日初版発行
経営に行き詰った社長の服毒自殺 - 最初は誰もがそう考えていた。しかし・・・・・・・
ひとりの死から、闇に沈んだ複数の犯罪が浮かび上がる 捜査の圧倒的リアリティ ページをめくる手が止まらない、本格警察小説の白眉!
「勤ちゃん、どえらい事件に関わってしもたな」
失踪した食品会社社長の遺体が、高速道路非常帯に駐車中の車内で発見された。多額の保険金、手詰まりになった資金繰り、不渡り手形・・・・・・・。彼の死は自殺と推定され、捜査はすすめられるが - 。大阪・京橋署暴犯係の刑事・映画オタクの 「勤ちゃん」 こと上坂勤と、麻雀好きの礒野次郎のコンビが、丹念な捜査と緻密な見立てで、絡んだ糸を一つ一つひもといてゆく。ほどけた糸の先に見えてきたものとは? (中央公論新社)
失踪したのは篠原紀昭、歳は五十八歳。都島区善法寺町で 『シノハラ』 という食品卸会社を経営しています。妻の真須美は、夫の紀昭が 「闇金業者に脅されて、自殺するかもしれない」 と言い、失踪した前日 「わたしに隠れるように、生命保険の証書を見ていた」 と言ったのでした。死亡時の受取額を訊くと、真須美は 「九千万円」 と答えます。
「篠原紀昭さんは九月六日金曜の十七時ごろ、所有するクラウンを運転して会社を出た。行き先は不明。その日の二十三時すぎ、いま名古屋にいる、日曜に帰る、と奥さんの携帯にメールが入ったが、その後はこちらからのメールにも電話にも応答なし。名古屋に取引先はあるが、立ち寄った形跡はなし。・・・・・・・篠原さんの失踪の理由について、八月二十一日の昼前に電話がかかって外出したが、そのとき、斎藤商事という金融業者に脅迫されたらしい。斎藤商事は 『シノハラ』 が振り出した一億六千五百万円の約束手形を篠原さんに示して返済を迫ったが、その手形は九月四日に不渡りとなった・・・・・・・。」(本文/上坂メモより)
「主人は闇金業者に脅されたんです。手形のことで」
「約束手形、ですか」
「その業者はうちが振り出した手形を持ってたそうです」
「業者の名称は」
「斎藤商事です」「冷凍栗を仕入れた代金として 『シノハラ』 の手形を仕入れ先に渡した、と理解してええんですね」 礒野はいった。
「はい、そうです」
「その仕入れ先は」
「『華光通商』 という会社です」
真須美は答えたが、少し間をおいて、「でも、栗はうちの倉庫にはありません」「どういうことですか」
「伝票だけの取引なんです。栗は華光通商の倉庫にあるはずです」
「ご主人は現物を受けとらずに手形を渡したんですか」
「栗は転売しました。華光通商が紹介してくれた 『イトマル食産』 です」
「転売? 現物がないのに、ですか」
「売掛け伝票と手形が回るんです。会社から会社に」「ジロさん、循環取引ですわ」 上坂がいった。
「循環取引・・・・・・・」 どこかで聞いた憶えがある。
「循環取引の手口は古くさい。商品は動かさずに金と伝票だけを循環させるんです」
複数の企業が示し合わせて商品の転売や業務委託などの相互発注を繰り返すことで架空の売上高を計上し、業績を実際よりよく見せる - と、上坂はつづけた。
*
聞けば聞くほど話が錯綜する。華光通商の花田という男は食品ブローカーか - 。パクリ屋やサルベージ屋か - 。そもそも、篠原と花田は商取引だけの関係なのか - 。
この真須美という女も底が知れない感じがする。こちらが訊くことに答えはするが、どこかはぐらかされているような気がしないでもない。(本文より)
『シノハラ』 を食い物にしようと企む輩の連鎖は、華光通商や斎藤商事だけに止まりません。裏でヤクザ組織が暗躍し、内には早くに篠原を見限った人物がいます。複雑に絡み合う関係の中で、己だけは損をしないようにと関与を否定し続ける容疑者たちを、上坂・礒野のコンビは果たして “落とす” ことができるのでしょうか。臨場感溢れる捜査の合間に交わされる、およそ警官らしからぬ言動と併せ、思う存分楽しんでください。笑ってやってください。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆黒川 博行
1949年愛媛県今治市生まれ。
京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業。
作品 「二度のお別れ」「雨に殺せば」「ドアの向こうに」「迅雷」「悪果」「疫病神」「国境」「螻蛄」「文福茶釜」「煙霞」「暗礁」「破門」「泥濘」「後妻業」「勁草」「騙る」他多数
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