『夜に星を放つ』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

『夜に星を放つ』窪 美澄 文藝春秋 2022年7月30日第2刷発行

第167回 直木賞受賞作

かけがえのない人間関係を失い傷ついた者たちが、再び誰かと心を通わせることができるのかを問いかける短編集。

コロナ禍のさなか、婚活アプリで出会った恋人との関係、30歳を前に早世した双子の妹の彼氏との交流を通して、人が人と別れることの哀しみを描く 「真夜中のアボカド」。学校でいじめを受けている女子中学生と亡くなった母親の幽霊との奇妙な同居生活を描く 「真珠星スピカ」、父の再婚相手との微妙な溝を埋められない小学生の寄る辺なさを描く 「星の随に」 など、人の心の揺らぎが輝きを放つ五編。(文藝春秋)

[第一話] 真夜中のアボカド
婚活アプリで出会った恋人と、このまま関係が続くと思っていたが・・・・・・・。

[第二話] 銀紙色のアンタレス
十六歳になった真は田舎のばあちゃんの家で幼馴染みの朝日と夏休みを過ごす。

[第三話] 真珠星スピカ
交通事故で亡くなった母親の幽霊と、奇妙な同居生活が始まった。

[第四話] 湿りの海
離婚した妻と娘はアメリカに渡った。傷心の沢渡はシングルマザーと出会い・・・・・・・。

[第五話] 星の随 (まにま)
弟が生まれたというのに、「僕」 は新しいお母さんのことをまだ 「渚さん」 としか呼べていない。

私を生んだ母は、私が三歳の時に死にました。姉が二人おり、三人の子供を抱えて父はどうしようもなかったのだと思います。父は、親戚から紹介されたその縁談を受け入れました。新しい母は初婚で若かったのですがてんかん持ちで、年に何度か白目を剥いて失神し、突然倒れることがありました。生活を立て直すべく再婚したはずの父だったのですが、思ったようには仕事ができず、相変わらず家は貧乏でした。

田舎まる出しで、友だちもよべない古い家が嫌でした。いつどこで倒れるかもしれない母が嫌でした。なぜこんな家の子どもに生まれてきたのだろうと、気付くとそうだった不幸な境遇を恨みました。自分のことを、誰より不憫な子だと思っていました。

歳をとり、今になってようやくわかります。おさない頃、私が私だけだと思い込んでいた不運や不幸が、実はそうではないということが。世間 (世界) にはもっともっと不運なことがあり、もっともっと不幸な人がいることを知りました。

私の不運や不幸なんかは何でもなくて、似たようなことは山ほどあって、もっともっとつらい思いの人が何千何万といることを。

そして、

思えば、一等つらかったのは父だったろうと。三人の子どもを抱えた男と結婚するしかなかった母だったろうと。老いた二人に、私は優しくできただろうか。育ててもらっただけの恩を返せただろうか。本を読み、そんなことを考えました。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆窪 美澄
1965年東京都稲城市生まれ。
カリタス女子中学高等学校卒業。短大中退。

作品 「晴天の迷いクジラ」「クラウドクラスターを愛する方法」「アニバーサリー」「ふがいない僕は空を見た」「さよなら、ニルヴァーナ」「アカガミ」「トリニティ」他多数

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