『ハリガネムシ』(吉村萬壱)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2022/02/14 『ハリガネムシ』(吉村萬壱), 作家別(や行), 吉村萬壱, 書評(は行)

『ハリガネムシ』吉村 萬壱 文芸春秋 2003年8月31日第一刷


ハリガネムシ (文春文庫)

ボップ調の明るい装丁から受けるイメージとはまるで中身が違っています。皆さんは、吉村萬壱という作家をご存じでしょうか? 彼はこの小説で芥川賞を受賞しているのですが、如何にも 「芥川賞らしい」 小説で、万人受けするとは到底思えないような内容です。

題名の 「ハリガネムシ」 とは、主人公の心象を表現する際の具体的なイメージとして語られているのですが、伏線として、冒頭にひとつのエピソードが用意されています。

中岡慎一は、25歳の教師。高校で倫理を教えています。ある日、慎一がアパートで居眠りをしていると、鼻の上で針金のような物が動いているのに気づきます。驚いて振り払うと、それは5センチ程のカマキリでした。

捕まえたカマキリをコップから出して指を弾くと、ちぎれた頭の首なしの部分から細い糸を垂らしながら踊るようにもがいています。仕方なくカマキリを新聞紙で掴んで握り潰すと、尻から真っ黒いハリガネムシが悶え出てきて、慎一はぎょっとします。

(話は変わり)

半年前に行ったソープでたまたま慎一の相手をしたサチコから、ある日突然電話がかかってきます。慎一は、サチコが聞くに任せて電話番号を教えていたのでした。サチコは慎一のアパートに転がり込むのですが、この女がひどい。シャブは打つわ、酒はあるだけ飲んで、夜は慎一と情交の毎日です。

サチコは勝手気ままなどうしようもない女なのですが、慎一は敢えて出て行けとは言いません。彼にしてみれば、躰が自由になる女を期せずして得たわけで、その分慎一の生活は徐々に投げやりなものになっていきます。

聞くとサチコの夫は服役中で、二人の息子は故郷の四国で施設に預けたままだといいます。サチコは慎一に、四国旅行へ行こうと誘います。

四国に着くと、サチコは施設に許可を得て二人の息子を連れ出すのですが、息子たちを施設に戻した後のサチコは抜け殻のようになり、帰りのラブホテルで彼女は自殺をしようとします。

安全剃刀で左腕の真ん中辺りが一文字に大きく裂けたのですが、病院へ行くことを頑固に拒むサチコに、慎一は裁縫セットの針と糸を使って傷口を縫合しようとします。麻酔の代わりにウィスキーを飲ませ、四肢を縛り上げると馬乗りになって押さえつけ、縫い針を傷の両脇の皮膚に突き刺します。

しかしそんなことは上手く行くはずもなく、縫い付けた黒糸はジグザグに折れ曲がり、縫い痕は次第に幼児の殴り書きのようになっていきます。

その時です。慎一はこういう事がしてみたかったのだ と初めて気付きます。人間の肉体を思い通りに切り刻みたいという欲望を、ハリガネムシのように体の中に飼っていたらしい・・・・・・・。慎一は、自分に潜んでいた破壊願望をその時はっきりと知るのでした。

慎一は興奮し、糸で縛られてハムのようになった傷口に人差し指を突っ込んでねじ回しながら、猛然と自慰を始めます。

これは、慎一の狂気のほんの一場面のことです。見境なくはしゃいでは躰を開くサチコ、無節操で教養もなく容姿も見劣りするサチコに対して、慎一は箍の外れた欲望と強い嫌悪感を同時に感じています。この後、ラストに向けて更なる修羅場が・・・・・・・吉村萬壱は、人の内なる欲望や衝動に真っ向から対峙し、目を背けたくなるほどの醜さを、これでもかと書いてみせたのだと思います。

この本を読んでみてください係数 80/100


ハリガネムシ (文春文庫)

◆吉村 萬壱(本名:吉村浩一)

1961年愛媛県松山市生まれ。大阪府大阪市・枚方市育ち。

京都教育大学教育学部第一社会科学科卒業。

作品 「クチュクチュバーン」「バースト・ゾーン」「ヤイトスエッド」「独居45」「ボラード病」など

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