『木洩れ日に泳ぐ魚』(恩田陸)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/11
『木洩れ日に泳ぐ魚』(恩田陸), 作家別(あ行), 恩田陸, 書評(か行)
『木洩れ日に泳ぐ魚』恩田 陸 文春文庫 2010年11月10日第一刷
舞台は、アパートの一室。別々の道を歩むことが決まった男女が最後の夜を徹し語り合う。初夏の風、木々の匂い、大きな柱時計、そしてあの男の後ろ姿 - 共有した過去の風景に少しずつ違和感が混じり始める。濃密な心理戦の果て、朝の光とともに訪れる真実とは - 。不思議な胸騒ぎと解放感が満ちる傑作長編! (文春文庫)
もしも。
もしもあなたが双子のうちの兄の方で、あなたには同い年の「妹」がいたとします。三歳の時、二人は離れ離れになります。あなたは母親と、妹は養女となって違う家で暮らすようになります。
偶然にも、二人は同じ大学に進学し、同じテニスサークルに入ったことで、奇跡的な再会をします。それは、何かを感じた、としか言いようがない感覚で、あなたがそうなら、彼女の方もそうだったといいます。
春の合宿でダブルスを組んだ時、あまりにもお互いの動きが手に取るように分かったので、初めて組んだとは思えない、と周囲が不思議がったほどです。もちろんのこと、一番不思議に感じていたのは当の二人でした。ところが - 二人はそれを勘違いします。
もしかして、これは恋なのではないかと。
二人で暮らし始めた時、もう私たちは自分たちがきょうだいであることを知っていたし、実際そのことを「分かって」いると思っていた。自分たちが一緒に住むのは、「これまでずっと一人っ子だと思っていて、知らなかったきょうだいとの時間を取り戻す」ためであり、「物価の高い東京で暮らすのに、一人よりは二人で住んだほうがいろいろ便利で安上がりだし、防犯上も都合がよい」という理由のはずだった。
二人はそう信じていたし、だからこそ両方の親を説得できたのでした。暮らし始めた当初はもっと初々しい、希望に満ちた顔をしていたはずの二人が、そのうち段々と、どこか疲れてぎすぎすしたような顔になっていきます。
私たちは馬鹿だった。自ら自分たちに罠を掛けたことに全く気付いていなかったのだ。
・・・・・・・・・
はじめこそそうではなかったものの、気付くと「妹」は常にピリピリし、あなたはあなたで、いつもどこかしら緊張しています。二人の置かれた状況が - 互いが望んだにも関わらず - いつの間にやら、いたずらに相手を苦しめる状況へと変化をしています。
この状況に及んで、「妹」は兄であるあなたに対し、
私は「兄」のことを、本当にきょうだいとして愛しているのだろうか? と考えます。
私が彼のことを愛していることは間違いなかった。自分の分身のように感じ、家族であることに驚き、感動し、喜んでいたことは紛れもない事実であり、こうして一緒に暮らしていることを自然ななりゆきと思って疑わなかった。
しかし、それはきょうだいとしてだろうか? 決して言葉にすることのなかった疑問を自分に投げかけたのはいつだったろう。
もう十分お分かりだと思いますが、この小説は、ある運命のもとに生まれ落ちた双子の「きょうだい」の「禁断の愛の物語」です。もしもあなたが「兄」なら、「妹」だとしたら、この状況を何とするのでしょう。
想像するだけで息が詰まるような感じがします。わかり過ぎるくらいわかっているのに、お互い何ひとつ「手出し」できない。二人は何があっても許されない関係で、それを知りながら、それとは別の感情で、激しく相手を求めているとするなら・・・・・・・
二人は決心し、部屋を出て行く前に、一晩かけて話し合うことにします。二人を置いて家を出て行った父親のこと。二人がした幼い頃のこと。確かなことと、曖昧なまま判然としない記憶の断片をなぞるうち、二人は、思いもしないある衝撃的な事実にたどり着きます。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆恩田 陸
1964年青森県青森市生まれ。宮城県仙台市出身。
早稲田大学教育学部卒業。
作品 「六番目の小夜子」「夜のピクニック」「ユージニア」「中庭の出来事」「蜜蜂と遠雷」他多数
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