『木洩れ日に泳ぐ魚』(恩田陸)_書評という名の読書感想文

『木洩れ日に泳ぐ魚』恩田 陸 文春文庫 2010年11月10日第一刷


木洩れ日に泳ぐ魚 (文春文庫)

舞台は、アパートの一室。別々の道を歩むことが決まった男女が最後の夜を徹し語り合う。初夏の風、木々の匂い、大きな柱時計、そしてあの男の後ろ姿 - 共有した過去の風景に少しずつ違和感が混じり始める。濃密な心理戦の果て、朝の光とともに訪れる真実とは - 。不思議な胸騒ぎと解放感が満ちる傑作長編! (文春文庫)

もしも。

もしもあなたが双子のうちの兄の方で、あなたには同い年の「妹」がいたとします。三歳の時、二人は離れ離れになります。あなたは母親と、妹は養女となって違う家で暮らすようになります。

偶然にも、二人は同じ大学に進学し、同じテニスサークルに入ったことで、奇跡的な再会をします。それは、何かを感じた、としか言いようがない感覚で、あなたがそうなら、彼女の方もそうだったといいます。

春の合宿でダブルスを組んだ時、あまりにもお互いの動きが手に取るように分かったので、初めて組んだとは思えない、と周囲が不思議がったほどです。もちろんのこと、一番不思議に感じていたのは当の二人でした。ところが - 二人はそれを勘違いします。

もしかして、これは恋なのではないかと。

二人で暮らし始めた時、もう私たちは自分たちがきょうだいであることを知っていたし、実際そのことを「分かって」いると思っていた。自分たちが一緒に住むのは、「これまでずっと一人っ子だと思っていて、知らなかったきょうだいとの時間を取り戻す」ためであり、「物価の高い東京で暮らすのに、一人よりは二人で住んだほうがいろいろ便利で安上がりだし、防犯上も都合がよい」という理由のはずだった。

二人はそう信じていたし、だからこそ両方の親を説得できたのでした。暮らし始めた当初はもっと初々しい、希望に満ちた顔をしていたはずの二人が、そのうち段々と、どこか疲れてぎすぎすしたような顔になっていきます。

私たちは馬鹿だった。自ら自分たちに罠を掛けたことに全く気付いていなかったのだ。
・・・・・・・・・
はじめこそそうではなかったものの、気付くと「妹」は常にピリピリし、あなたはあなたで、いつもどこかしら緊張しています。二人の置かれた状況が - 互いが望んだにも関わらず - いつの間にやら、いたずらに相手を苦しめる状況へと変化をしています。

この状況に及んで、「妹」は兄であるあなたに対し、

私は「兄」のことを、本当にきょうだいとして愛しているのだろうか?  と考えます。

私が彼のことを愛していることは間違いなかった。自分の分身のように感じ、家族であることに驚き、感動し、喜んでいたことは紛れもない事実であり、こうして一緒に暮らしていることを自然ななりゆきと思って疑わなかった。

しかし、それはきょうだいとしてだろうか? 決して言葉にすることのなかった疑問を自分に投げかけたのはいつだったろう。

もう十分お分かりだと思いますが、この小説は、ある運命のもとに生まれ落ちた双子の「きょうだい」の「禁断の愛の物語」です。もしもあなたが「兄」なら、「妹」だとしたら、この状況を何とするのでしょう。

想像するだけで息が詰まるような感じがします。わかり過ぎるくらいわかっているのに、お互い何ひとつ「手出し」できない。二人は何があっても許されない関係で、それを知りながら、それとは別の感情で、激しく相手を求めているとするなら・・・・・・・

二人は決心し、部屋を出て行く前に、一晩かけて話し合うことにします。二人を置いて家を出て行った父親のこと。二人がした幼い頃のこと。確かなことと、曖昧なまま判然としない記憶の断片をなぞるうち、二人は、思いもしないある衝撃的な事実にたどり着きます。

 

この本を読んでみてください係数 80/100


木洩れ日に泳ぐ魚 (文春文庫)

◆恩田 陸
1964年青森県青森市生まれ。宮城県仙台市出身。
早稲田大学教育学部卒業。

作品 「六番目の小夜子」「夜のピクニック」「ユージニア」「中庭の出来事」「蜜蜂と遠雷」他多数

関連記事

『ことり』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『ことり』小川 洋子 朝日文庫 2016年1月30日第一刷 ことり (朝日文庫) &nb

記事を読む

『飼い喰い/三匹の豚とわたし』(内澤旬子)_書評という名の読書感想文

『飼い喰い/三匹の豚とわたし』内澤 旬子 角川文庫 2021年2月25日初版 飼い喰い 三匹

記事を読む

『死にぞこないの青』(乙一)_書評という名の読書感想文

『死にぞこないの青』乙一 幻冬舎文庫 2001年10月25日初版 死にぞこないの青 (幻冬舎文

記事を読む

『不時着する流星たち』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『不時着する流星たち』小川 洋子 角川文庫 2019年6月25日初版 不時着する流星

記事を読む

『KAMINARI』(最東対地)_書評という名の読書感想文

『KAMINARI』最東 対地 光文社文庫 2020年8月20日初版 KAMINARI (光

記事を読む

『晩夏 少年短篇集』(井上靖)_書評という名の読書感想文

『晩夏 少年短篇集』井上 靖 中公文庫 2020年12月25日初版 晩夏 少年短篇集 (中公

記事を読む

『監獄に生きる君たちへ』(松村涼哉)_書評という名の読書感想文

『監獄に生きる君たちへ』松村 涼哉 メディアワークス文庫 2021年6月5日7刷 監獄に生き

記事を読む

『家系図カッター』(増田セバスチャン)_書評という名の読書感想文

『家系図カッター』増田 セバスチャン 角川文庫 2016年4月25日初版 家系図カッター (角

記事を読む

『よみがえる百舌』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『よみがえる百舌』逢坂 剛 集英社 1996年11月30日初版 よみがえる百舌 (百舌シリーズ

記事を読む

『おもかげ』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文

『おもかげ』浅田 次郎 講談社文庫 2021年2月17日第4刷発行 おもかげ (講談社文庫)

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

『カインの傲慢/刑事犬養隼人』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『カインの傲慢/刑事犬養隼人』中山 七里 角川文庫 2022年6月2

『カゲロボ』(木皿泉)_書評という名の読書感想文

『カゲロボ』木皿 泉 新潮文庫 2022年6月1日発行

『あたしたち、海へ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『あたしたち、海へ』井上 荒野 新潮文庫 2022年6月1日発行

『白昼夢の森の少女』(恒川光太郎)_書評という名の読書感想文

『白昼夢の森の少女』恒川 光太郎 角川ホラー文庫 2022年5月25

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』(李龍徳)_書評という名の読書感想文

『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李 龍徳 河出書房 2022年3月

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑