『とんこつQ&A』(今村夏子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『とんこつQ&A』(今村夏子), 今村夏子, 作家別(あ行), 書評(た行)

『とんこつQ&A』今村 夏子 講談社 2022年7月19日第1刷

真っ直ぐだから怖い、純粋だから切ない。
あの人のこと、笑えますか。

大将とぼっちゃんが切り盛りする中華料理店とんこつで働き始めた 「わたし」。「いらっしゃいませ」 を言えるようになり、居場所を見つけたはずだった。あの女が新たに雇われるまでは - 。「とんこつQ&A」

姉の同級生には、とんでもない嘘つき少年がいた。父いわく、そういう奴はそのうち消えていなくなってしまうらしいが・・・・・・「嘘の道」

普通の可笑しみから、私たちの真の姿と世界の深淵が顔を出す。人間の取り返しのつかない刹那を描いた4篇を収録 待望の最新作品集! (講談社)

(以下は、「人間の厄介さに心はざわついて」 と題して2022年8月27日付の朝日新聞に掲載された、トミヤマユキコ氏の書評からの抜粋です)

表題作とんこつQ&A の舞台は、とんこつという名の中華料理店。そこで働く今川さんは、接客が得意じゃない。いらっしゃいませすら満足に言えないときている。だが、あらかじめ書いておいた文章を読み上げることはできると気づき、Q&A方式で店のことをメモするように。大将とぼっちゃんの優しさに支えられながら、彼女は少しずつ店に馴染んでいく。

ここまでは不器用な女性の成長譚なのだが、丘崎さんという新人が入ったことで、雲行きが怪しくなってくる。自分以上に仕事のできない丘崎さんのためにQ&Aが書かれるようになり、やがてそれは、大将親子と丘崎さんを仲よし3人家族に仕立て上げるような内容へと変化していくのだ。

Q.ボクのこと、好き? 』 『A.好きやで、大好きや』・・・・・・・ いやもう、飲食店の業務と関係ないじゃん。おかしいだろ。外野の人間はそう思うだろう。しかし彼らの中では、今川さんの台本なしにとんこつの存続はあり得ないというところまで来ているのだった。謎の共依存はいつまで続くのか。破綻するとしたらどんな風に。地獄とまでは言えないまでも、明らかに不穏な状況であるざわざわ

表題作に限ったことではありません。続く3篇 「嘘の道」 「良夫婦」 「冷たい大根の煮物」 もすべてそうなのですが、日常で起こる些細な出来事で、当事者たちは至って真面目なのですが、彼らのすること思うことは “普通” と 「どこか、何か」 が違っています。

言い方を変えれば、彼らの “普通” は、(少なくとも) 私が思う “普通” ではありません。事の善し悪しは別にして、私ならそうはしません。登場人物たちは、なぜ “そっち” へ行ってしまうのでしょう。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆今村 夏子
1980年広島県広島市生まれ。

作品 「こちらあみ子」「あひる」「星の子」「父と私の桜尾通り商店街」「むらさきのスカートの女」「木になった亜沙」等

関連記事

『私の盲端』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文

『私の盲端』朝比奈 秋 朝日文庫 2024年8月30日 第1刷発行 三島賞、野間文芸新人賞、

記事を読む

『海の見える理髪店』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『海の見える理髪店』荻原 浩 集英社文庫 2019年5月25日第1刷 第155回直木

記事を読む

『NO LIFE KING ノーライフキング』(いとうせいこう)_書評という名の読書感想文

『NO LIFE KING ノーライフキング』いとう せいこう 新潮社 1988年8月10日発行

記事を読む

『火のないところに煙は』(芦沢央)_絶対に疑ってはいけない。

『火のないところに煙は』芦沢 央 新潮社 2019年1月25日8刷 「神楽坂を舞台

記事を読む

『てらさふ』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『てらさふ』朝倉 かすみ 文春文庫 2016年8月10日第一刷 北海道のある町で運命的に出会っ

記事を読む

『女神/新装版』(明野照葉)_書評という名の読書感想文

『女神/新装版』明野 照葉 光文社文庫 2021年10月20日初版第1刷発行 とび

記事を読む

『向田理髪店』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『向田理髪店』奥田 英朗 光文社 2016年4月20日初版 帯に[過疎の町のから騒ぎ]とあり

記事を読む

『戸村飯店 青春100連発』(瀬尾まいこ)_書評という名の読書感想文

『戸村飯店 青春100連発』瀬尾 まいこ 文春文庫 2012年1月10日第一刷 大阪の超庶民的

記事を読む

『あの子の殺人計画』(天祢涼)_書評という名の読書感想文

『あの子の殺人計画』天祢 涼 文春文庫 2023年9月10日 第1刷 社会派ミステリー・仲田

記事を読む

『受け手のいない祈り』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文

『受け手のいない祈り』朝比奈 秋 新潮社 2025年3月25日 発行 芥川賞作家・医師の衝撃

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『妊娠カレンダー』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『妊娠カレンダー』小川 洋子 文春文庫 2020年12月20日 第2

『カフェーの帰り道』(嶋津輝)_書評という名の読書感想文

『カフェーの帰り道』嶋津 輝 東京創元社 2026年1月23日 4版

『きっと君は泣く』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『きっと君は泣く』山本 文緒 角川文庫 2026年1月25日 改版初

『彼女たちが隠したかったこと』(一木けい)_書評という名の読書感想文

『彼女たちが隠したかったこと』一木 けい 角川文庫 2026年1月2

『カンザキさん』(ピンク地底人3号)_書評という名の読書感想文

『カンザキさん』 ピンク地底人3号 集英社 2026年1月10日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑