『小説 シライサン』(乙一)_目隠村の死者は甦る

公開日: : 最終更新日:2024/01/09 『小説 シライサン』(乙一), 乙一, 作家別(あ行), 書評(さ行)

『小説 シライサン』乙一 角川文庫 2019年11月25日初版

乙一 4年ぶりの最新作&映画原作! その怪談を聞いた人間は - 呪われる。

親友の変死を目撃した女子大生・瑞紀の前に現れたのは、同じように弟を亡くした青年・春男だった。何かに怯え、眼球を破裂させて死んだ二人。彼らに共通していたのはある温泉旅館で怪談を聞いたことだった。(ウェブサイトKADOKAWAより)

- あらすじ -
眼球が破裂した遺体が相次いで発見されるという異様ともいえる事件が発生した。遺体で発見された者たちには、息絶える直前に怯えているようで何かに取り憑かれた感じであったという奇妙な共通点があった。連続で起きたこれらの事件で親友を眼前で失くした女子大生の瑞紀は、同じく弟を失くした大学生の鈴木春男とともに大切な人を失った要因を突き止めるために調査に乗り出す。調査を行っている最中に、瑞紀と春男はこれらの連続事件のキーマンとされる詠子という女性を発見するが、何と2人の眼前において詠子の眼球が突然破裂を起こし、詠子はそのまま心臓麻痺により息絶えてしまう。2人は詠子が息絶える前に 「シライサン・・・・・・・」 という謎めいた言葉を呟いていたのを耳にしていた。その後、調査の過程において事件のことを耳にした記者の間宮幸太も加わり、更に “シライサン” に関する呪いの核心に迫っていく。それが呪いの渦に巻き込まれる前触れとも知らずに。(wikipedia)

あのな・・・・・・・。
ある男が、道を歩いてた。
鬱蒼とした山道だ。
薄暗い中を、どんどん歩いてた。
するとな、ちりん、と、どこかで鈴が鳴ったわけ。

渡辺は左手の人差し指を立てると、それを登場人物に見立てながら話した。人差し指を蛇行させるように左右に動かし、曲がりくねった山道を男が歩いているように想像させる。
鈴が鳴った場面では、人差し指が動くのを止めて、振り返るような仕草をした。
くるりと後方に指の腹を向けたのだ。

何だ? って、男は振り返る。
すると後ろの方にな、異様に目の大きな女がいたんだ。
男は気味が悪くて、早足になる。
だけどな、そいつがずっと、ついてくるわけ。
たまらなくなって、なんで追いかけてくるんだ、って聞いたら、女はこう言うんだ。
おまえが、私のことを知っているからだ、って・・・・・・・。

渡辺は右手の人差し指を立てて、それを女に見立てていた。男が逃げ、女がついていく。そのような場面を指をつかって表現する。

おまえは何なんだ! と男が言った。
するとその女は、シライサンだ、って名乗ったんだ。
男は、シライサン? と聞き返す。
ああ、そうさ。私を知ってるやつを追いかける。そして、殺すんだ、って。

やがて話は佳境に入る。

・・・・・・・来るな! もう来ないでくれよ! あんたの名前を聞いた奴、他にもいるだろ? そいつのとこに行ってくれよ! なあ、頼むよ! いるだろ? 名前を聞いた奴がよ!

私の名前を聞いた奴? 

そうだ。俺たちの話に、耳を傾けて、シライサンって名前を聞いた奴が、いるだろ、そこに!
ああ、いるね、そこに・・・・・・・。

渡辺は、女に見立てていた人差し指を、突然、三人の宿泊客の方へ向けた。その瞬間、物語の中にいた登場人物が、こちら側を振り返って見つめたように感じられた。三人はそれぞれはっとした表情になる。俊之も、どきりとした。物語と、現実との境界が、その一瞬、曖昧になった。

次はお前だ。

女の役を演じていた人差し指が、三人を指さす。全員が肩を震わせた。
数秒間の沈黙。それから、渡辺は噴き出した。

- という 「話を聞いた奴が、次に呪われる系の話」。映画 シライサンは2020年1月10日公開 監督・脚本:安達寛高乙一) 主演:飯豊まりえ 乞うご期待!!

この本を読んでみてください係数 80/100

◆乙一
1978年福岡県生まれ。本名は安達寛高。
豊橋技術科学大学工学部卒業。

作品 「失踪 HOLIDAY」「銃とチョコレート」「夏と花火と私の死体」「GOTH リストカット事件」「暗いところで待ち合わせ」「ZOO」「箱庭図書館」「死にぞこないの青」他多数

関連記事

『二千七百の夏と冬』(上下)(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『二千七百の夏と冬』(上下)荻原 浩 双葉文庫 2017年6月18日第一刷 [物語の発端。現代の話

記事を読む

『チェレンコフの眠り』(一條次郎)_書評という名の読書感想文

『チェレンコフの眠り』一條 次郎 新潮文庫 2024年11月1日 発行 なんてチャーミングな

記事を読む

『脊梁山脈』(乙川優三郎)_書評という名の読書感想文

『脊梁山脈』乙川 優三郎 新潮文庫 2016年1月1日発行 上海留学中に応召し、日本へ復員する

記事を読む

『夕映え天使』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文

『夕映え天使』浅田 次郎 新潮文庫 2021年12月25日20刷 泣かせの浅田次郎

記事を読む

『少年と犬』(馳星周)_書評という名の読書感想文

『少年と犬』馳 星周 文藝春秋 2020年7月25日第4刷 傷つき、悩み、惑う人び

記事を読む

『猿の見る夢』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『猿の見る夢』桐野 夏生 講談社 2016年8月8日第一刷 薄井正明、59歳。元大手銀行勤務で、出

記事を読む

『ハンチバック』(市川沙央)_書評という名の読書感想文

『ハンチバック』市川 沙央 文藝春秋 2023年7月25日第5刷発行 【第169回

記事を読む

『十一月に死んだ悪魔』(愛川晶)_書評という名の読書感想文

『十一月に死んだ悪魔』愛川 晶 文春文庫 2016年11月10日第一刷 売れない小説家「碧井聖」こ

記事を読む

『にぎやかな落日』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『にぎやかな落日』朝倉 かすみ 光文社文庫 2023年11月20日 初版1刷発行 「今まで自

記事を読む

『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』(尾形真理子)_書評という名の読書感想文

『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』尾形 真理子 幻冬舎文庫 2014年2月10日初版 年

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『今日のハチミツ、あしたの私』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『今日のハチミツ、あしたの私』寺地 はるな ハルキ文庫 2024年7

『アイドルだった君へ』(小林早代子)_書評という名の読書感想文

『アイドルだった君へ』小林 早代子 新潮文庫 2025年3月1日 発

『現代生活独習ノート』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『現代生活独習ノート』津村 記久子 講談社文庫 2025年5月15日

『受け手のいない祈り』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文

『受け手のいない祈り』朝比奈 秋 新潮社 2025年3月25日 発行

『蛇行する月 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『蛇行する月 』桜木 紫乃 双葉文庫 2025年1月27日 第7刷発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑