『スモールワールズ』(一穂ミチ)_書評という名の読書感想文
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『スモールワールズ』(一穂ミチ), 一穂ミチ, 作家別(あ行), 書評(さ行)
『スモールワールズ』一穂 ミチ 講談社文庫 2023年10月13日 第1刷発行
2022年本屋大賞第3位 第43回吉川英治文学新人賞! 共感と絶賛の声を集めた宝物のような1冊。
ままならない、けれど愛おしい 「小さな世界」 たち。
夫婦、親子、姉弟、先輩と後輩、知り合うはずのなかった他人 - 書下ろし掌篇を加えた、七つの 「小さな世界」。生きてゆくなかで抱える小さな喜び、もどかしさ、苛立ち、諦めや希望を丹念に掬い集めて紡がれた物語が、読む者の心の揺らぎにも静かに寄り添ってゆく。吉川英治文学新人賞受賞、珠玉の短編集。(講談社文庫)
各篇どれもが面白い。ちょっと考えさせられたり、意表をつかれたり。上手いという他ありません。また一人、続けて読みたいと思う作家ができました。
収録作は七篇。
一篇目の 『ネオンテトラ』 の主人公は、妊娠を望みながら、浮気疑惑のある夫と表向きは円満な夫婦として日々を暮らす女性。ある日、親からの暴力と隣り合わせな環境で生きる男子中学生と出会い、彼女は彼と近所のコンビニで落ち合うようになる。
二篇目は、とある事情で前の高校をやめ、実家に戻った弟のもとに、これまたある秘密を抱えて出戻ってきた 「えらく体格のいい」 姉がともに暮らす時間を描く 『魔王の帰還』。「魔王」 とは、この姉 「真央」 のあだ名である。
三篇目の 『ピクニック』 は、母と娘とその夫、夫の両親、そして半年前に生まれたばかりの赤ちゃんとのピクニックを心待ちにする、一風変わった語りの冒頭からスタートする。生まれたばかりの孫と祖母たち、という幸せそうな彼らには、それまでどんな物語があったのか。
四篇目の 『花うた』 は、往復書簡の形式で語られるある男女の人生の話。やり取りされる手紙を通じて、彼らが過ごした長い年月が語られる。
五篇目 『愛を適量』 では、さえない教師として変わり映えのしない毎日を送る父のもとに、かつて向き合うことのないままに別れた子どもが成長して訪ねてくる物語。
そして (六篇目)、『式日』。知り合ってから今日まで、相手を尊重するあまりに大切な話に踏み込まずにきた先輩と後輩が、束の間の短い旅を通じて、初めて、そして改めて互いを見つめる一日を描く。
最後に収録された 『スモールスパークス』 は、文庫化にあたり一穂さんが書きおろした掌篇。短い中に、小さな光と長い人生の象徴的な一瞬が弾け、静かな余韻が残る一篇だ。(解説より by 辻村深月 )
※読んでほしいと思う一番は、第二篇 「魔王の帰還」。おそらく、一度読めば忘れることができません。たとえ話のほとんどを忘れたとしても、腹を抱えて笑ったこと、最後に泣いたこと、それは覚えているに違いありません。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆一穂 ミチ
1978年大阪府生まれ。
関西大学卒業。
作品 「雪よ林檎の香のごとく」「イエスかノーか半分か」「光のとこにいてね」「パラソルでパラシュート」「うたかたモザイク」「砂嵐に星屑」他多数
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