『神の子どもたちはみな踊る』(村上春樹)_ぼくたちの内なる “廃墟” とは?

『神の子どもたちはみな踊る』村上 春樹 新潮文庫 2019年11月15日33刷

1995年1月、地震はすべてを一瞬のうちに壊滅させた。そして2月、流木が燃える冬の海岸で、あるいは、小箱を携えた男が向かった釧路で、かえるくんが地底でみみずくんと闘う東京で、世界はしずかに共振をはじめる・・・・・・・。大地は裂けた。神は、いないのかも知れない。でも、おそらく、あの震災のずっと前から、ぼくたちは内なる廃墟を抱えていた - 。深い闇の中に光を放つ6つの黙示録。(新潮文庫)

[目次]
1.UFOが釧路に降りる
2.アイロンのある風景
3.神の子どもたちはみな踊る
4.タイランド
5.かえるくん、東京を救う
6.蜂蜜パイ

副題に ” after the quake” とあります。東日本大震災のことではありません。それより前に起こった阪神・淡路大震災の、後の世界の様子が綴られています。

但し、著者が村上春樹となれば一筋縄ではいきません。それは百も承知で - 事が事だけに途中で投げ出すわけにもいかず - わからぬなりにとにかく全部読みました。

震災の前と後では何かが確実に違う - それはわかるのですが、では 「書いてあることの一々がきっちり腑に落ちる」 かというと、恥ずかしながら、胸を張って 「はい」 とは言えません。私如きの並みの想像力では如何ともし難いものがあります。

(たぶん、本当はこんな読み方をしてはいけないのでしょう。語られていることのエッセンスと伝えたいもののニュアンスこそを感じるべきなのに、おそらくそうではない、違う点ばかりが気になります)

UFOと大震災の間には、何か因果関係があるのでしょうか? 舞台を震源地から遙か遠くの釧路にしたのは、どんな理由からなのでしょう。

「アイロンがアイロンじゃない」 としたら、「アイロンが部屋に置いてある」 だけの絵にどんな意味があるのでしょう? アイロンは、何の (誰の) 身代わりなのでしょう。

神の子どもたちがみな踊るのは - 、東京を救うのが “かえるくん” なのは - 、なぜなんでしょう? 思わず踊り出してしまう理由は、かえるくんでなくてはならないわけは、何なのでしょう。

蜂蜜パイ:主人公を敢えて著者の来歴に近付けたのは、きっと 「神戸」 のことが書きたかったに違いありません。遠く離れた故郷のことを書いたのは、そこが限りなく震源地に近かったこと。そして、かつて過ごした学生の頃の話を書いたのは、続けて発生した 「地下鉄サリン事件」 と震災が繋がっていると感じ取ったからでしょう。二つは、先の世界を確実に “暗示” しているのだと。

(この小説は) 2000年2月、新潮社より刊行された。「地震のあとで」 という副題付きで 『新潮』 に掲載された5編の短編と、書き下ろし短編1編を収録している。2002年2月に新潮文庫として文庫化された。(以下略)

本書の登場人物達は皆1995年1月に発生した阪神・淡路大震災に間接的に関わっている。また村上は 「解題」 において同年3月にオウム真理教が引き起こした地下鉄サリン事件との関連にも触れており、この短篇集では以後の作品に出てくる 「ある種の圧倒的な暴力」 の片鱗を描いているという。

ドストエフスキーの 『悪霊』 の一節 (江川卓訳) と、ジャン=リュック・ゴダールの映画 『気狂いピエロ』 の一節がエピグラフに引用されている。(以下略/wikipedia参照)

誰もが想像もしなかった大惨事が立て続けに起こり、等しく人は思うようになります。その現実に、「神はいるのだろうか」 と。今まで生きた道程に、神はいたのだろうかと。そう考えた結果、できた小説ではないかと。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆村上 春樹
1949年京都府京都市伏見区生まれ。兵庫県西宮市、芦屋市で育つ。
早稲田大学第一文学部演劇科卒業。

作品 「風の歌を聴け」「羊をそめぐる冒険」「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」「ねじまき鳥クロニクル」「1Q84」「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」「女のいない男たち」他多数

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