『くちぶえ番長』(重松清)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『くちぶえ番長』(重松清), 作家別(さ行), 書評(か行), 重松清

『くちぶえ番長』重松 清 新潮文庫 2020年9月15日30刷

マコトとは、それきり会うことはなかった。
引っ越してしばらくたった頃 - たしか五月だったと思う、あいつはちっとも手紙をくれないから、こっちからハガキを出してみた。「夏休みには泊りに来てください」 と書いたあと、一人で顔を赤くして 「・・・・・・・とパパもママも言ってます」 と付け加えた。

でもそのハガキ、ポストに投函した三日後に 「転居先不明」 のスタンプを捺されて戻ってきた。
引っ越してすぐにおばあさんの病気が重くなって、また別の町の病院に移ったらしい - と病院に電話をかけて調べてくれた父も、マコトたちが引っ越した先の住所は知らなかった。

マコトとぼくをつなぐ糸は、そこで切れてしまった。
おじさんになったいまでも、切れたままだ。
ぼくの手元に残っているのは、指人形の 『マコトくん』 と、マコトと一緒に過ごした小学四年生の一年間の思い出だけだ。(本文より)

(この作品は、2005年4月から2006年3月にわたって雑誌 『小学四年生』 に連載されたものに、書き下ろしを加えた、文庫オリジナル商品です)

小学四年生のツヨシとマコトの 「たかが一年。されど一年。」 が描かれています。

大人になった誰かの実話であるような。それを重松清が (多少なりとも) デフォルメして描いたファンタジーであるような。そのころ思う理想のカップルの、マコトがカノショで、カレシがツヨシであるような。そんな感じがします。

級長にふさわしく、ツヨシは何事もそつなくこなすタイプの少年でした。彼は常にクラス全体のことを考えています。一人の問題を優先するするよりも、クラス全体のことを考えるべし - これが当時の彼の、精一杯の “言いわけ” でした。

事を荒げたくないばかりに、彼の行動はやや消極的にならざるを得ません。あえて意見を言わず、見て見ぬふりをして過ごします。わざわざ自分が出しゃばらなくても、事は収まるのではないか - これが彼のモットーで、ツヨシはよくあるタイプの “ことなかれ主義者” でした。

そんなツヨシの勇気のなさを、みごとなまでの行動力で反転させた少女が現れます。それがマコトでした。転校してきた彼女は、開口一番 「わたし、この学校の番長になる」 と宣言します。級長でも他の係でもなく、「番長になる! 」 と言ったのでした。

ツヨシは既にこの段階で、自分にはない真っ正直さの塊のような、(しかもよく見るとちょっとかわいい) マコトに対し、(級長としても、一人の男子としても) 目が離せなくなっています。

小中学生必読! 心を育ててくれる名作。

小学四年生のツヨシのクラスに、一輪車とくちぶえの上手な女の子、マコトがやってきた。転校早々 わたし、この学校の番長になる! と宣言したマコトに、みんなはびっくり。でも、小さい頃にお父さんを亡くしたマコトは、誰よりも強く、優しく、友だち思いで、頼りになるやつだったんだ - 。サイコーの相棒になったマコトとツヨシが駆けぬけた一年間の、決して忘れられない友情物語。(新潮文庫)

※残念ながら、ツヨシの想いは成就しません。しかし、それはこの手の物語では 「定石」 としなければなりません。たとえ大人になった二人が再会したとしても、そこからはまた別の話が始まっていくはずです。だって二人は、もう小学四年生ではないのですから。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆重松 清
1963年岡山県津山市生まれ。
早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。

作品「定年ゴジラ」「カカシの夏休み」「ビタミンF」「十字架」「流星ワゴン」「疾走」「カシオペアの丘で」「ナイフ」「星のかけら」「また次の春へ」「ゼツメツ少年」他多数

関連記事

『怪物の木こり』(倉井眉介)_書評という名の読書感想文

『怪物の木こり』倉井 眉介 宝島社文庫 2023年8月10日 第6刷発行 第17回

記事を読む

『七怪忌』(最東対地)_書評という名の読書感想文

『七怪忌』最東 対地 角川ホラー文庫 2021年4月25日初版 この学校に伝わる七

記事を読む

『エイジ』(重松清)_書評という名の読書感想文

『エイジ』重松 清 新潮文庫 2004年7月1日発行 重松清の小説が嫌いだと言う人はあまりいないと

記事を読む

『騙る』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『騙る』黒川 博行 文藝春秋 2020年12月15日第1刷 大物彫刻家が遺した縮小

記事を読む

『御不浄バトル』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『御不浄バトル』羽田 圭介 集英社文庫 2015年10月25日第一刷 僕が入社したのは、悪徳ブ

記事を読む

『戸村飯店 青春100連発』(瀬尾まいこ)_書評という名の読書感想文

『戸村飯店 青春100連発』瀬尾 まいこ 文春文庫 2012年1月10日第一刷 大阪の超庶民的

記事を読む

『ここは私たちのいない場所』(白石一文)_あいつが死んで5時間後の世界

『ここは私たちのいない場所』白石 一文 新潮文庫 2019年9月1日発行 順風満帆

記事を読む

『木になった亜沙』(今村夏子)_圧倒的な疎外感を知れ。

『木になった亜沙』今村 夏子 文藝春秋 2020年4月5日第1刷 誰かに食べさせた

記事を読む

『煙霞』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『煙霞』黒川 博行 文芸春秋 2009年1月30日第一刷 WOWOWでドラマになっているらし

記事を読む

『くちなし』(彩瀬まる)_愛なんて言葉がなければよかったのに。

『くちなし』彩瀬 まる 文春文庫 2020年4月10日第1刷 別れた男の片腕と暮ら

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『朱色の化身』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『朱色の化身』塩田 武士 講談社文庫 2024年2月15日第1刷発行

『あなたが殺したのは誰』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

『あなたが殺したのは誰』まさき としか 小学館文庫 2024年2月1

『ある行旅死亡人の物語』(共同通信大阪社会部 武田惇志 伊藤亜衣)_書評という名の読書感想文

『ある行旅死亡人の物語』共同通信大阪社会部 武田惇志 伊藤亜衣 毎日

『アンソーシャル ディスタンス』(金原ひとみ)_書評という名の読書感想文

『アンソーシャル ディスタンス』金原 ひとみ 新潮文庫 2024年2

『十七八より』(乗代雄介)_書評という名の読書感想文

『十七八より』乗代 雄介 講談社文庫 2022年1月14日 第1刷発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑