『鵜頭川村事件』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『鵜頭川村事件』櫛木 理宇 文春文庫 2020年11月10日第1刷

鵜頭川村事件 (文春文庫)

墓参りのため、亡き妻の故郷・鵜頭川村を三年ぶりに訪れた岩森明とその娘。突然、豪雨にみまわれ、山間の小さな村は土砂崩れで孤立。そして、若者の死体が発見された。犯人は村人か、それとも - 。降りしきる雨の中、父と幼い娘は暴動と狂乱に陥った村から脱出できるのか。血と恐怖のパニック・サスペンス! (文春文庫)

刃は、骨になかば食いこんで止まったらしい。
手斧を振るった青年が、引き抜こうと柄を動かす。
そのたび、悲痛な悲鳴が長く尾を引く。
血の臭いが漂った。
叫喚。怒号。痙攣的な、場違いな笑い声。
掌の汗を、岩森は無意識にズボンで拭った。

[事件の発端と概要]
1979年 (昭和54年) 6月17日未明、気象台はX県全域に大雨洪水警報を発令した。午前5時から8時にかけての3時間の降水量が200ミリを超える大雨を記録。県内各地に豪雨による冠水、土砂崩れ、河川の氾濫、堤防の決壊、橋の崩壊等の被害をもたらした。山中にある鵜頭川村もそのひとつで、17日の朝に土砂崩れが起こったことにより、停電および断水をともなう孤立状態となった。

・17日、警察と消防が救援部隊を結成するも、堤防の決壊などで緊急性の高い区域に多く人員が割かれた。鵜頭川村にも救援部隊は派遣されたが、大規模な地盤の緩みにより救援活動は遅々として進まなかった。
・18日、若者を中心とする住民で自警団が結成された。
・20日、自警団と、自警団に反発する住民らの間で諍いが勃発した。災害による不自由が続き、鬱憤が溜まっていたことなどから大規模な内乱に発展。暴力をともなう騒乱となった。
・6月22日早朝、救援部隊到着。前述の内乱による死亡を含む死者4名、および78名の重軽傷者が発見され、住民とともに保護された。(本文より)

事件発生当時の村の人口は約900人。世帯数は約300戸。その内、矢萩姓がおよそ1割を占めます。矢萩一族は、昭和20年代に農地を手放し、村長一族の会社の下請けとなる建設会社を興して成功し、この30年間、村民たちの雇用主として支配的な立場を維持してきました。

この基本的な村の構造が近年、揺らぎ始めています。それを象徴するのが、矢萩一族が推進する道路拡張工事でした。着工はしたものの、村の全世帯の4割を占める降谷家の人々が反対に回り、その勢力は、次の選挙で再選を狙う村長も無視できないものになっています。

この対立構造こそが元凶で、未曾有の災害がきっかけになり、綻びかけた関係が増幅し、さらなる対立を生むことになります。長く続く封建的な村社会の中で、虐げられた人びとは、これを機にと、闘うことを決意します。

たまたま墓参りに帰って来ただけの岩森と娘の愛子も、やがて狂乱のさなかに放り込まれることになります。ただのよそ者ではいられなくなります。

※この物語に登場する人物は、優に20人を超えます。ややこしいことこの上ないのですが、冒頭にある 「人物相関図」 を参考に、確認しながら読み進めてください。

この本を読んでみてください係数 80/100

鵜頭川村事件 (文春文庫)

◆櫛木 理宇
1972年新潟県生まれ。
大学卒業後、アパレルメーカー、建設会社などの勤務を経て、執筆活動を開始する。

作品 「ホーンテッド・キャンパス」「赤と白」「侵蝕 壊される家族の記録」「209号室には知らない子供がいる」「死刑にいたる病」「死んでもいい」他多数

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