『正欲』(朝井リョウ)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/05
『正欲』(朝井リョウ), 作家別(あ行), 書評(さ行), 朝井リョウ
『正欲』朝井 リョウ 新潮文庫 2023年6月1日発行
第34回柴田錬三郎賞受賞! 2022年本屋大賞ノミネート! 「ダ・ヴィンチ」 編集部が選ぶプラチナ本 OF THE YEAR 2021年選出!
「この世界で生きていくために、手を組みませんか。」 これは共感を呼ぶ傑作か? 目を背けたくなる問題作か? 朝井リョウが放つ、最高傑作。
自分が想像できる “多様性” だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな - 。息子が不登校になった検事・啓喜。初めての恋にきづく女子大生・八重子。ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。ある事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり始める。だがその繋がりは、”多様性を尊重する時代” にとって、ひどく不都合なものだった。読む前の自分には戻れない、気迫の長編小説。(新潮文庫)
「軽い重い」 で言えば、とても重い。重すぎて、しんどすぎて、逃げ出したくなってしまう。なかったことにして、できれば 「読む前の自分に戻りたい」 と思うかもしれません。
解説 正欲を引き受ける - 朝井リョウは意地悪だ 東畑開人/臨床心理士
『正欲』 の解説を引き受けて、ほとほと後悔していた。一読して、すぐにわかった。この物語は手に余る。
「正しい性」 がテーマだ。いかなる性に属す 「べき」 で、何に性欲を覚え、それをいかにして満たす 「べき」 か。社会は 「正しい性」 のあり方を勝手に取り決めて、「正しくない」 とされる人たちを排除してきた。法律や制度、人々が交わす何気ない世間話、そして私が専門としている心理学にだって、この暴力が深く浸みこんでいて、多くの人を傷つけてきた。
だから、この小説は 「正しい性」 を告発する。ただし、徹底的に告発する。つまり、「正しい性」 を告発することの 「正しさ」 まで告発する。新たな 「正しさ」 が新たな 「正しくなさ」 を作り出す構造を明るみに出すのだ。
*
性欲と正欲は仲の悪い双子である。性欲が芽生えると同時に正欲は生じる。精神分析家フロイトはそう考えた。
フロイトにとって、性欲は桐生夏月たちが愛した水みたいなものだ。「リビドー」 と呼ばれるこの生物学的な本能は、蛇口から無秩序に噴射し、変幻自在に形を変える。性欲にはどこにだって向かっていけるような根源的自由がある。これは危険だ、と社会は思う。無秩序な性欲は制御されねばならない。だから、社会は人々に命令する。
「これが正しい性であり、そのセックスはおかしい」
動物としての本能を型にはめて、勝手に取り決めた 「人間」 の形に押し込めようとするのである。いや、実際には社会の声はもっとエグい。「なんよそれ。意味わからん。まじウケる。でもキチガイは迷惑じゃなあ」
夏月のかつてのクラスメート西山修の言葉だ。彼らは自分が正しく生きていることを疑わないし、社会は正しくあるべきだと固く信じている。他者の正しさには見向きもしない。これが正欲だ。(以下略)
※マーライオンのように人が嘔吐する様子に興奮する嘔吐フェチ、対象が何物かに丸呑みされる様子に興奮する丸呑みフェチ、時間停止・石化・凍結などにより人体が変化していく様子に興奮する状態異常/形状変化フェチ、風船そのものや風船を膨らましている人などに興奮する風船フェチ、ミイラのように拘束する・されることを好むマミフィケーションフェチ窒息フェチ腹部殴打フェチ流血フェチ真空パックフェチ・・・・・・・
中で、様々に形を変える水、勢いよく噴射され飛び散る水、固体から液体に変わりゆく水、沸騰し暴れる水、光を吸い込み闇に呑まれ、場面によってはどんな音も奏でることができるそれ。誰にも真実を摑ませないよう自由自在に形を変えるその姿は、大也にとって、他の何にも代替されない煽情的な存在でした。彼のその 「欲動」 は、誰に理解されるのでしょう。誰と共有すれば、事足りるのでしょう。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆朝井 リョウ
1989年岐阜県不破郡垂井町生まれ。
早稲田大学文化構想学部卒業。
作品 「桐島、部活やめるってよ」「もういちど生まれる」「何者」「世界地図の下書き」「世にも奇妙な君物語」「スター」他多数
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