『おれたちの歌をうたえ』(呉勝浩)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/05 『おれたちの歌をうたえ』(呉勝浩), 作家別(か行), 呉勝浩, 書評(あ行)

『おれたちの歌をうたえ』呉 勝浩 文春文庫 2023年8月10日第1刷

四人の少年と、ひとりの少女 友情を取り戻すための暗号ミステリー

おれたちはどこで道を違えたのだろうか・・・・・・・。音信不通だった幼馴染の死。遺された暗号 - 。導く先にあるものは、金か? 真相か? ミステリーランキング2冠!!爆弾と双璧をなす圧巻のミステリー

元刑事の河辺は、音信不通だった幼馴染の佐登志が死んだ知らせを受ける。彼が遺したのは、暗号めいた伝言。友からの謎かけに、河辺には封印していたはずの苦い記憶がよみがえる。40年前、故郷で巻き込まれたある事件 - 。追われるように都会に出た彼らが、歩んできた人生とは? かつての悲劇の真相に迫る、大河ミステリー。(文春文庫)

物語は昭和47年 (1972年) に始まり、令和2年 (2020年) に至ります。幼い日 【栄光の五人組】 と呼ばれた、河辺久則、五味佐登志、外山高翔、石塚欣太、竹内風花 - 4人の少年と1人の少女のその後の繋がりは、ある事件をきっかけに、ぷつりと切れて無くなったかにみえました。他の4人のことはわかりません。が、少なくとも河辺にとってはそうでした。

元刑事で今はデリヘルの運転手をしている河辺のもとに、かつての親友・佐登志が死んだと連絡が入る。知らせてきたのは佐登志の世話をしていたというチンピラの茂田。佐登志は暗号のような詩を遺しており、茂田はそれが金塊の隠し場所だという。

佐登志の遺体に他殺の痕跡を発見した河辺は暗号に挑むが、それは河辺と佐登志が高校生だった43年前の、故郷での未解決事件に関係するものだった - 。

長野を舞台に、昭和、平成、令和に跨る壮大かつ骨太な大河ミステリーだ。ふたつの殺人事件の意外な真相はもちろん、そこに至るまでの展開も実にスリリングで、600ページの長さを一気読みさせられた。

中でも特筆すべきは、登場人物と時代をシンクロさせるという手法だ。無邪気な仲良しグループだった当時の仲間は皆、事件に人生を捻じ曲げられ、今は幸せとはいえない状況にある。どこで間違えたのか、どこかでやり直すことはできなかったのか。その描写が、無邪気に上昇を信じていた昭和から失われた30年と呼ばれる平成を経た現代の社会に重なる。彼らの挫折は社会の挫折なのだ。(後略/大矢博子 「好書好日」 より)

※この小説の執筆に関し、著者が大いに影響を受けた作品、それと常々意識している作品はこれですという動画を見つけました。何とはなしに、わかる気がします。以下に、紹介しておきます。

藤原伊織 『テロリストのパラソル
横山秀夫 『64 ロクヨン
佐々木譲 『警官の血
大沢在昌 『新宿鮫

さらに加えて、『64 ロクヨン』 と 『新宿鮫』 については、本作中に “それとわかる“ 描写があります、と。ぜひ、読んで見つけてください。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆呉 勝浩

1981年青森県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業。

作品 「ロスト」「蜃気楼の犬」「道徳の時間」「ライオン・ブルー」ほか

関連記事

『「いじめ」をめぐる物語』(角田光代ほか)_書評という名の読書感想文

『「いじめ」をめぐる物語』角田 光代ほか 朝日文庫 2018年8月30日第一刷 いじめを受けた側、

記事を読む

『あなたが殺したのは誰』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

『あなたが殺したのは誰』まさき としか 小学館文庫 2024年2月11日 初版第1刷発行 累

記事を読む

『路上のX』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『路上のX』桐野 夏生 朝日新聞出版 2018年2月28日第一刷 こんなに叫んでも、私たちの声は

記事を読む

『文庫版 オジいサン』(京極夏彦)_なにも起きない老後。でも、それがいい。

『文庫版 オジいサン』京極 夏彦 角川文庫 2019年12月25日初版 72歳の益

記事を読む

『アイ・アム まきもと』(黒野伸一 著 倉本裕 脚本)_書評という名の読書感想文

『アイ・アム まきもと』黒野伸一 著 倉本裕 脚本 徳間文庫 2022年9月15日初刷

記事を読む

『生きるとか死ぬとか父親とか』(ジェーン・スー)_書評という名の読書感想文

『生きるとか死ぬとか父親とか』ジェーン・スー 新潮文庫 2021年3月1日発行 母

記事を読む

『悪人』(吉田修一)_書評という名の読書感想文

『悪人』吉田 修一 朝日文庫 2018年7月30日第一刷 福岡市内に暮らす保険外交

記事を読む

『炎上する君』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『炎上する君』西 加奈子 角川文庫 2012年11月25日初版 「君は戦闘にいる。恋という戦闘のさ

記事を読む

『憂鬱たち』(金原ひとみ)_書評という名の読書感想文

『憂鬱たち』金原 ひとみ 文芸春秋 2009年9月30日第一刷 金原ひとみと綿矢りさ、二人の若い

記事を読む

『悪徳の輪舞曲(ロンド)』(中山七里)_シリーズ最高傑作を見逃すな!

『悪徳の輪舞曲(ロンド)』中山 七里 講談社文庫 2019年11月14日第1刷 報

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月2

『執着者』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『執着者』櫛木 理宇 創元推理文庫 2024年1月12日 初版 

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑