『また次の春へ』(重松清)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/10 『また次の春へ』(重松清), 作家別(さ行), 書評(ま行), 重松清

『また次の春へ』重松 清 文春文庫 2016年3月10日第一刷

終わりから、始まる。厄災で断ち切られたもの、それでもまた巡り来るもの。喪失の悲しみと、再生への祈りを描く、7つの小さな物語。冬を越えたあとに待つ春を、また思う。次の春も、また次の春も、おだやかな暖かい日がつづくといい。

あの日はたしか、みぞれ混じりの雪が降っていた。さぞや寒かったことだろう。手足が痺れ、やがて感覚もなくなろうとする間際。なすすべもなく山裾の小高い場所に立つ大勢の人たちは、海からの大波が陸へと侵入し、そこにあるあらゆるものを薙ぎ倒し、濁流となって尚内陸へと進みゆく光景を前にして、何を思い、何を感じていたのだろうか。

映像にはなかったものの、流されたものの中には、人もいたのだ。人が。老人や子どもが。未来ある多くの若者や、現に今暮らしの柱となって働く壮年の男性や女性も。体が不自由な人も、病気の人も。幼いわが子を残し、家族がすべて奪われたようなことも。

たとえば - それが 「自分だったなら」 と考えてみる。

父・母を喪い、妻を喪い、子を喪ったとしたらどうだろう。友を喪い、想いを寄せる人を喪ったとしたら、その時、私はなにをなせばよいのだろう。

共に生き、共に生きようとした人を亡くした時、そこになにが残るというのか。喪ったものものがあまりに大きく (あるいはあり過ぎて)、きっと言葉さえ出やしない。喩えられない喪失感に打ちひしがれて、息もできない。したくもない。そんな気持ちになるのだろうと。

小学3年生、母を亡くした夜に父がつくってくれた “わが家” のトン汁を、避難所の炊き出しでつくった僕。東京でもどかしい思いを抱え、二ヵ月後に縁のあった被災地を訪れた主婦マチ子さん。あの日に同級生を喪った高校1年生の早苗さん。

ふるさとを穢され、避難指示の中で開かれたお盆の夏祭りで逡巡するノブさん。かつての教え子が亡くなったことを知り、仮設住宅に遺族を訪ねていく先生。行方不明の両親の死亡届を出せないまま、自分の運命を引き受けていこうとする洋行 - 。

未曽有の被害をもたらし、日本中が揺れた東日本大震災。それぞれの位置から、それぞれの距離から、再生への光と家族を描いた珠玉の短篇集。(アマゾン内容紹介より)

収録作品  トン汁/おまじない/しおり/記念日/帰郷/五百羅漢/また次の春へ  以上7編。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆重松 清
1963年岡山県津山市生まれ。
早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。

作品「定年ゴジラ」「カカシの夏休み」「ビタミンF」「十字架」「流星ワゴン」「疾走」「カシオペアの丘で」「ナイフ」「星のかけら」「ゼツメツ少年」他多数

関連記事

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発行 朝日、読売、毎日、日

記事を読む

『エイジ』(重松清)_書評という名の読書感想文

『エイジ』重松 清 新潮文庫 2004年7月1日発行 重松清の小説が嫌いだと言う人はあまりいないと

記事を読む

『まともな家の子供はいない』津村記久子_書評という名の読書感想文

『まともな家の子供はいない』 津村 記久子 筑摩書房 2011年8月10日初版 小柄で、身に着け

記事を読む

『ニューカルマ』(新庄耕)_書評という名の読書感想文

『ニューカルマ』新庄 耕 集英社文庫 2019年1月25日第一刷 電機メーカーの関

記事を読む

『ラブレス』(桜木紫乃)_書評という名の感想文

『ラブレス』 桜木 紫乃  新潮文庫 2013年12月1日発行 桜木紫乃は 『ホテルローヤル』

記事を読む

『夜はおしまい』(島本理生)_書評という名の読書感想文

『夜はおしまい』島本 理生 講談社文庫 2022年3月15日第1刷 誰か、私を遠く

記事を読む

『起終点駅/ターミナル』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『起終点駅/ターミナル』桜木 紫乃 小学館文庫 2015年3月11日初版 今年の秋に映画にな

記事を読む

『白い部屋で月の歌を』(朱川湊人)_書評という名の読書感想文

『白い部屋で月の歌を』 朱川 湊人 角川ホラー文庫 2003年11月10日初版 第10回日本ホラ

記事を読む

『さよならドビュッシー』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『さよならドビュッシー』中山 七里 宝島社 2011年1月26日第一刷 ピアニストからも絶賛!

記事を読む

『森に眠る魚』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『森に眠る魚』角田 光代 双葉文庫 2011年11月13日第一刷 東京の文教地区の町で出会った5人

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月2

『執着者』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『執着者』櫛木 理宇 創元推理文庫 2024年1月12日 初版 

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑