『ハーレーじじいの背中』(坂井希久子)_書評という名の読書感想文

『ハーレーじじいの背中』坂井 希久子 双葉文庫 2019年1月13日第一刷

坂井希久子は2008年、「虫のいどころ」 で第88回オール讀物新人賞を受賞。同作を収録した 『コイカツ-恋活』(文芸春秋・文庫化に際し 『こじれたふたり』 に改題) を皮切りに、当初は恋愛小説を中心に手がけていたが、大阪のラーメン屋を舞台にした人情小説 『泣いたらアカンで通天閣』(祥伝社文庫) で高い評価を得る。
その後、青春小説や人情小説を立て続けに刊行。代表作に、二軍の帝王と呼ばれた野球選手を周囲の人々が語る 『ヒーローインタビュー』(ハルキ文庫)、オリンピックを目指す女性マラソンランナーが妊娠して人生の岐路に立たされる 『ウィメンズマラソン』(同) などのスポーツものや、東京のバリキャリと京都の老舗のぼんの結婚がテーマの 『若旦那のひざまくら』(双葉社)、バラバラの家族がひとつになる様子を描いた 『ただいまが、聞きたくて』(角川文庫) といった家族ものなどがある。また、本書同様に、未来の見えない高校生の足掻きを描いた作品では 『17歳のうた』(文藝春秋) がお薦めだ。(大矢博子/解説より抜粋)

坂井希久子の小説は、これまでに 『ヒーローインタビュー』 『ウィメンズマラソン』 『ただいまが、聞きたくて』 を読みました。

三冊の中で、私は断然 『ウィメンズマラソン』 が好きです。『ウィメンズマラソン』 を読んだので、これも読みたいと思いました。

読むと、(三冊と比べ) この作品はそもそもの設定にちょっと無理があるような。そんな感じがします。実際世の中にそんな家族がいるのだろうか、とか、(都合が良すぎて) 普通そんなに上手くはいかないでしょうに - とか。

伝えようとすることは十分にわかるのですが、この物語に登場する人物らは、実は、思うほどには “悲惨でも不幸でも” ないのではないかと。何だかんだとあるにはありますが、それを “辛い” と言えてしまう心情には少なからず違和感があります。

「ウチには祖父母四人と両親がいて、子供は私一人なの。(中略) それって近い将来、私が全員養わなきゃいけないってことじゃない?」
こんなプレッシャーに喘ぐ高校三年生の少女に、私たち大人は何を言ってやれるだろう。何を言ってやるべきなのだろう。
本書 『ハーレーじじいの背中』 を読みながら、ずっとそれを考えていた。(同上)

- とあります。が、(大矢氏には悪いのですが) 私には、この物語の主人公・真理奈が、抱え切れない運命を背負い、そのプレッシャーに喘ぐばかりの幼気な少女だとはどうしても思えません。

たとえ自分が医学部を目指したばかりに実家が代々営む銭湯を廃業したとしても、その結果跡地に建った高層マンションの一室が我が家となり、そこでは両親の両親、つまりは祖父母四人と共に暮らすこととなり、その内の祖母の一人のぼけがひどくなったとしても、それが一体何だというのでしょう? 

大人たちは、全て承知で今在る暮らしを受け入れています。かつてを思い、懐かしんだりもしますが、今の暮らしが嫌なわけではありません。住む場所があり、(真理奈の進学資金を含め) 暮らすに足るだけの蓄えがあります。

世の中にはもっともっと “辛い暮らし” があるということ。それと比べ、自分たちが如何ばかりか恵まれているということを、大人たちは知っており、真理奈だけが気付かずにいます。

この本を読んでみてください係数 75/100

◆坂井 希久子
1977年和歌山県生まれ。
同志社女子大学学芸学部日本語日本文学科卒業。

作品 「虫のいどころ」「ヒーローインタビュー」「虹猫喫茶店」「ただいまが、聞こえない」「泣いたらアカンで通天閣」「ウィメンズマラソン」「こじれたふたり」他

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