『かか』(宇佐見りん)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『かか』(宇佐見りん), 作家別(あ行), 宇佐見りん, 書評(か行)

『かか』宇佐見 りん 河出書房新社 2019年11月30日初版

19歳の浪人生うーちゃんは、大好きな母親=かかのことで切実に悩んでいる。かかは離婚を機に徐々に心を病み、酒を飲んでは暴れることを繰り返すようになった。鍵をかけたちいさなSNSの空間だけが、うーちゃんの心をなぐさめる。脆い母、身勝手な父、女性に生まれたこと、血縁で繋がる家族という単位・・・・・・・自分を縛るすべてが恨めしく、縛られる自分が何より歯がゆいうーちゃん。彼女はある無謀な祈りを抱え、熊野へと旅立つ - 。
未開の感性が生み出す、勢いと魅力溢れる語り。痛切な愛と自立を描き切った、20歳のデビュー小説。(河出書房新社)

第33回 三島由紀夫賞 史上最年少受賞作
第56回 文藝賞受賞作

私は男ですから本当のところはわからないのですが、親子関係のなかで、母と娘 (=女同士) というのは実にややこしい。難しい。そんな気がしてなりません。

もしも娘が生まれ、その娘が “名実ともに” 女になったとき、それまでと比べて二人の関係は、明らかに別のものへと変化します。親子でありながら、同じ女という性の生々しさを共有するがゆえの鬱陶しさや葛藤に、思い悩むことになります。

うーちゃんにすれば、母は、母であって女ではありません。女である母を、理解しつつ、認めることができません。それと併せ、女に生まれた自分や自分の血縁を、恨むことしかできません。

小説では、弱冠19歳の主人公が、主に母と娘の間にある愛憎を、自分にしかない言葉で、正確かつ克明に描き出そうとしています。その空気や匂いや距離感を、リアルを、確と味わってください。

かかは、ととの浮気したときんことをなんども繰り返し自分のなかでなぞるうちに深い溝にしてしまい、何を考えていてもそこにたどり着くようになっていました。おそらく誰にもあるでしょう、つけられた傷を何度も自分でなぞることでより深く傷つけてしまい、自分ではもうどうにものがれ難い溝をつくってしまうということが、そいしてその溝に針を落としてひきずりだされる一つの音楽を繰り返し聴いては自分のために泣いているということが。

インターネットは思うより冷やこくないんです。匿名による悪意の表出、根拠のない誹謗中傷、などというものは実際使い方の問題であってほんとうは鍵かけて内にこもっていればネットはぬくい、現実よりもほんの少しだけ、ぬくいんです。

表情が見えなくたって相手の文章のほのかなニュアンスを察してかかわるもんだし、人間関係も複雑だし、めんどうなところもそんなに変わらん。ほんの少しだけぬくいと言ったのは、コンプレックスをかくして、言わなくていいことは言わずにすむかんです。第一印象がいきなし見た目で決まってしまう現実社会とはべつにほんの少しだけかっこつけた自撮りを上げることもできるし、学校どこ?なんて聞いてくる人もいないし、教室でひとりでお弁当を食べてる事実を誰も知らないわけです。みんな少しずつ背伸びができて、人に言えん悩みは誰かに直接じゃなくて誰かのいるとこで吐き出すことができるんです。

・・・・・・・うーちゃんはにくいのです。ととみたいな男も、そいを受け入れてしまう女も、あかぼうもにくいんです。そいして自分がにくいんでした。自分が女であり、孕まされて産むことを決めつけられるこの得体の知れん性別であることが、いっとう、がまんならんかった。男のことで一喜一憂したり泣き叫んだりするような女にはなりたくない、誰かのお嫁にも、かかにもなりたない。女に生れついたこのくやしさが、かなしみが、おまいにはわからんのよ。(太字は全て本文からの抜粋)

※小説は、どこかの地方の方言、ではなく、彼女が話す日常会話をもって語られています。意味がわかりづらい言葉があると思いますが、前後を参考に予想しながら読んでください。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆宇佐見 りん
1999年静岡県生まれ、神奈川県育ち。
現在大学生。

作品 2019年、本作にて第56回文藝賞受賞。

関連記事

『錠剤F』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『錠剤F』井上 荒野 集英社 2024年1月15日 第1刷発行 ひとは、「独り」 から逃れら

記事を読む

『らんちう』(赤松利市)_書評という名の読書感想文

『らんちう』赤松 利市 双葉社 2018年11月25日第一刷 「犯人はここにいる全員です」 あな

記事を読む

『午後二時の証言者たち』(天野節子)_書評という名の読書感想文

『午後二時の証言者たち』天野 節子 幻冬舎文庫 2017年10月10日初版 八歳の女児が乗用車に撥

記事を読む

『グラニテ』(永井するみ)_書評という名の読書感想文

『グラニテ』永井 するみ 集英社文庫 2018年2月25日第一刷 "女" になるあなたが許せない。

記事を読む

『名前も呼べない』(伊藤朱里)_書評という名の読書感想文

『名前も呼べない』伊藤 朱里 ちくま文庫 2022年9月10日第1刷 「アンタ本当

記事を読む

『ある日 失わずにすむもの』(乙川優三郎)_書評という名の読書感想文

『ある日 失わずにすむもの』乙川 優三郎 徳間文庫 2021年12月15日初刷 こ

記事を読む

『噛みあわない会話と、ある過去について』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『噛みあわない会話と、ある過去について』辻村 深月 講談社文庫 2021年10月15日第1刷

記事を読む

『よみがえる百舌』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『よみがえる百舌』逢坂 剛 集英社 1996年11月30日初版 『百舌の叫ぶ夜』から続くシリーズ

記事を読む

『不愉快な本の続編』(絲山秋子)_書評という名の読書感想文

『不愉快な本の続編』絲山 秋子 新潮文庫 2015年6月1日発行 性懲りもなくまたややこしい

記事を読む

『きのうの影踏み』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『きのうの影踏み』辻村 深月 角川文庫 2018年8月25日初版 雨が降る帰り道、後輩の女の子と

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『妊娠カレンダー』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『妊娠カレンダー』小川 洋子 文春文庫 2020年12月20日 第2

『カフェーの帰り道』(嶋津輝)_書評という名の読書感想文

『カフェーの帰り道』嶋津 輝 東京創元社 2026年1月23日 4版

『きっと君は泣く』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『きっと君は泣く』山本 文緒 角川文庫 2026年1月25日 改版初

『彼女たちが隠したかったこと』(一木けい)_書評という名の読書感想文

『彼女たちが隠したかったこと』一木 けい 角川文庫 2026年1月2

『カンザキさん』(ピンク地底人3号)_書評という名の読書感想文

『カンザキさん』 ピンク地底人3号 集英社 2026年1月10日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑