『らんちう』(赤松利市)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/10 『らんちう』(赤松利市), 作家別(あ行), 書評(ら行), 赤松利市

『らんちう』赤松 利市 双葉社 2018年11月25日第一刷

犯人はここにいる全員です」 あなたは6人の独白に戦慄するだろう。そして読後、理解した真実に驚愕する。

リゾート旅館の総支配人が従業員6人の手により惨殺された。逮捕された犯人達は取調室で動機を語り出したが、彼らの殺意はあやふやなもので、確固たる憎悪も目的もない。キモデブ総支配人のワンマン経営、過重労働、美貌と人望を誇る若女将の裏の顔、従業員が洗脳される自己啓発セミナー - 複雑に絡み合う事実が供述から浮かび上がり、真相は二匹の奇形金魚 「ランチュウ」 へと帰結する。(双葉社)

第一章 犯行/従業員たちの衝動
舞台は千葉・九十九里浜近くにあるリゾート旅館、望海楼。総支配人である夷隅登が殺されたのは、3Fの一番奥にある特別室でのことでした。彼はその特別室を自分専用の仕事場兼寝室として自由気ままに使用しています。そこで、彼は寝込みを襲われたのでした。

登は手足を押さえ込まれた上に、延長コードで頸を絞められて殺害されます。直接手を下したのが元従業員・石和田徳平で、部屋には他に5人の従業員がいました。通報したのも石和田で、駆けつけた警察官に、彼は 「犯人は - ここにいる全員です」 と答えます。

その6人が、以下の面々。(登場順)

・大出隆司(35)  厨房契約社員
・花沢恵美(28)  フロント契約社員
・石井健人(26)  総務部正社員
・藤代伸一(35)  営繕契約社員
・石和田徳平(65)  元営繕係長
・鐘崎祐介(36)  厨房臨時社員

ここでは、彼らの、あるやないかの “殺意” についてが語られます。

第二章 取調/容疑者たちの憂鬱
6人の供述は紆余曲折し、いたずらに長いばかりで的を得ません。唯一、鐘崎のそれだけが他の5人とは違っています。(この章に最も多くのページが割かれています)

第三章 供述/参考人たちの困惑
ここでは既に望海楼を辞めた (リストラされた) 人間、望海楼の経営者の娘であり、死んだ登の妻の純子、そして純子が頼りとする、ある「自己啓発セミナー」 の塾長らが登場してきます。供述するのは以下の6名。

高富悦子(61)  元副支配人
高梨亀次(59)  元料理長
外間勝次(67)  元取締役総務部部長
夷隅純子(37)  望海楼専務取締役/殺された夷隅登の妻
比和嘉和(65)  自己啓発セミナー塾長
小金井さおり(29)  元自己啓発セミナー講師

第四章 覚醒/受刑者たちの明日
事件のあらましは、凡そ第三章で明らかになったかに見えます。しかし、この物語が真に示そうとするのはそれではありません。その先にあり、それがここに書いてあります。

※私は今、李龍徳(イ・ヨンドク)と同じくらい赤松利市が気になっています。この小説が気になったのなら、ぜひ前作の 『鯖』 を読んでみてください。この本以上に “生臭い” 話が書いてあります。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆赤松 利市
1956年香川県生まれ。

作品 「藻屑蟹」「鯖」

関連記事

『入らずの森』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『入らずの森』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2016年12月31日第6刷 陰惨な歴史

記事を読む

『ナキメサマ』(阿泉来堂)_書評という名の読書感想文

『ナキメサマ』阿泉 来堂 角川ホラー文庫 2020年12月25日初版 最後まで読ん

記事を読む

『夜の道標』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『夜の道標』芦沢 央 中公文庫 2025年4月25日 初版発行 第76回 日本推理作家協会賞

記事を読む

『半島へ』(稲葉真弓)_書評という名の読書感想文

『半島へ』稲葉 真弓 講談社文芸文庫 2024年9月10日 第1刷発行 親友の自死、元不倫相

記事を読む

『殺戮にいたる病』(我孫子武丸)_書評という名の読書感想文

『殺戮にいたる病』我孫子 武丸 講談社文庫 2013年10月13日第一刷 東京の繁華街で次々と猟奇

記事を読む

『棺桶も花もいらない』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『棺桶も花もいらない』朝倉 かすみ U - NEXT 2025年4月25日 初版第1刷発行

記事を読む

『きみのためのバラ』(池澤夏樹)_書評という名の読書感想文

『きみのためのバラ』池澤 夏樹 新潮文庫 2010年9月1日発行 予約ミスで足止めされた空港の空白

記事を読む

『落英』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『落英』黒川 博行 幻冬舎 2013年3月20日第一刷 大阪府警薬物対策課の桐尾と上坂は覚醒剤

記事を読む

『NO LIFE KING ノーライフキング』(いとうせいこう)_書評という名の読書感想文

『NO LIFE KING ノーライフキング』いとう せいこう 新潮社 1988年8月10日発行

記事を読む

『ナオミとカナコ』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『ナオミとカナコ』奥田 英朗 幻冬舎文庫 2017年4月15日初版 望まない職場で憂鬱な日々を送る

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『八月の母』(早見和真)_書評という名の読書感想文

『八月の母』早見 和真 角川文庫 2025年6月25日 初版発行

『おまえレベルの話はしてない』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『おまえレベルの話はしてない』芦沢 央 河出書房新社 2025年9月

『絶縁病棟』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『絶縁病棟』垣谷 美雨 小学館文庫 2025年10月11日 初版第1

『木挽町のあだ討ち』(永井紗耶子)_書評という名の読書感想文

『木挽町のあだ討ち』永井 紗耶子 新潮文庫 2025年10月1日 発

『帰れない探偵』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『帰れない探偵』柴崎 友香 講談社 2025年8月26日 第4刷発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑