『地下街の雨』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/10
『地下街の雨』(宮部みゆき), 作家別(ま行), 宮部みゆき, 書評(た行)
『地下街の雨』宮部 みゆき 集英社文庫 2018年6月6日第55刷
同僚との挙式が直前で破談になり、逃げるように会社を辞めた麻子。ビジネス街の喫茶店で働きはじめた彼女に、〈あの女〉 が近づいてきた本当の理由は・・・・・・・。表題作ほか、連続殺人犯の影に追われるデカ長を描く 「ムクロバラ」、家中からとつぜん音が消えた一家に、ある日 “銀河系の研究者” が訪れる 「さよなら、キリハラさん」 など、稀代のストーリーテラーが紡ぐ、驚きに満ちた七つの物語。(集英社文庫)
[収録作品]
・地下街の雨
・決して見えない
・不文律
・混線
・勝ち逃げ
・ムクロバラ
・さよなら、キリハラさん
「ムクロバラ」
47歳の公務員・橋場秀男にしてみればそれは余りに突然な出来事で、前触れひとつなく始まり、そうするしかない流れの中で、事はいつしか終わっていたのでした。気付くと橋場は、人をひとり殺しています。
殺害された 「結果的被害者」 が地元の不良グループ出身で、覚醒剤所持の前科もある男だというデータが出てくる以前から、デカ長は、これは正当防衛だなと思っていた。橋場の様子からそれが感じられたのだ。(P202)
ところが、こういう直観的判断がスムーズに通るほど、法治国家は甘くありません。結果、橋場の犯した 「殺人」 は、正当防衛かどうかを巡り、法廷に持ち込まれたのでした。
幸いにも、最終的に橋場は無罪となります。ところが、それで全てが終わりかというと、そうはなりません。思うほど世間は甘くなく、橋場が 「人ひとりを殺した」 という事実は、彼自身と彼の家族に重く圧しかかり、その後の人生を大きく変えることになります。
疲れ果てた橋場夫妻が協議離婚し、橋場が妻に、地道に貯めた預貯金の大半を与え、娘の親権も譲り渡して家を出たのは、判決言い渡しからちょうど半年後のことだった。それから現在まで、三ヶ月足らずだ。橋場が、裁判のあいだもそのあとも、目立たないように気を配りながら何かと橋場の身の上を気遣ってきたデカ長を、初めて 「訪問」 してきてから、まだ二ヶ月とたっていない。
初めて橋場がやってきたとき、デカ長は、彼がおかしくなっていることに気がついた。いや、デカ長でなくても、誰でもそう思ったろう。殺人事件を報じる新聞記事を切り抜いてきて、「ほら、またムクロバラが殺人をしましたよ。なんということだ。あんなやつがまだ野放しに - 」 と騒ぐのだ。(P204)
その時橋場が持ってきた新聞記事というのが、一人暮らしの若い女性を狙った凶悪犯の仕業で、殺されたのは21歳の女子大生、殺した男は無職で前科三犯の金谷竜彦という男だったのです。
かなやたつひこ - しかしそれを、橋場は 「ムクロバラ」 と読むのでした。
奇妙なことに、橋場は、新聞に載る殺人事件のすべてを指して、全部がムクロバラのやったことだとは言いません。その中のひとつを選んでやってくるのでした。
※終盤になり、橋場がするある行為に大いに驚くことになります。しかしながら、それが橋場にとってどんな意味を持つのか。そしてそれを見たデカ長が、なぜあんなにも狼狽えたのか・・・・・・・遠い遠いヒントにもならないヒントですが、本当は、デカ長は 「伊崎」 といいます。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆宮部 みゆき
1960年東京都江東区生まれ。
東京都立墨田川高等学校卒業。
作品 「我らが隣人の犯罪」「火車」「蒲生邸事件」「理由」「模倣犯」「名もなき毒」「過ぎ去りし王国の城」他多数
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