『よみがえる百舌』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2018/02/28
『よみがえる百舌』(逢坂剛), 作家別(あ行), 書評(や行), 逢坂剛
『よみがえる百舌』逢坂 剛 集英社 1996年11月30日初版
『百舌の叫ぶ夜』から続くシリーズで、第四話となります。
※過去の百舌シリーズ書評はこちら↓
『幻の翼』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文
『砕かれた鍵』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文
『百舌の叫ぶ夜』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文
前作で起きたペガサス絡みの来迎会事件で、倉木と美希の息子・真浩と美希の母親・友希子に次いで、倉木尚武自身が死んでしまいます。美希は失意の底にありながらも、津城警視正の下で特別監察官室に籍を置き、夫尚武の遺志を継ぐ決心をしていました。一方、大杉良太は離婚して独身となり、この第四話では、美希との関係が急接近します。
来迎会事件の黒幕・民政党幹事長の馬渡久平や馬渡の側近・元法務次官の倉本真造を含む馬渡一派に絡んで、不審な動きをしていた公安特務一課長の球磨隆市が殺害されます。球磨は首筋に千枚通しを突き立てられ、死体のそばには百舌の羽が置いてありました。
美希は百舌を連想し、津城は偶然の一致にすぎないと言いますが、そこへ次なる殺人事件が発生します。稜徳会病院事件で百舌に右肩を撃たれた水島東七警部が、球磨同様に千枚通しで刺し殺されたのです。そして、服のポケットに残されていたのは百舌の羽根。
百舌の手口同様の殺人が連続し、もはや何者かが目的をもって意図的に真似ているとしか考えられない状況です。球磨と一緒に懲戒免職になった三宅卓二、かつて南多摩署の署長だった栗山専一。稜徳会病院事件、来迎会事件の真相を知る者の死がその後も続きます。
第四話で新しく登場する人物を紹介しましょう。
東都ヘラルド新聞社の、残間龍之輔。大杉は水島の再就職先のカジノバー《空中ブランコ》を訪ね、そこで知り合った残間から、発表されていない一連の殺人事件の情報がマスコミに漏れていることを知らされます。
青山警察署生活安全課警部補の紋屋貴彦。美希は偶然のように紋屋と出会い、倉木に似た雰囲気をもつ紋屋に惹かれ、誘いに応じて《ウエストポイント》というカジノバーヘ行きます。この二人が今回のキーパーソン。よく憶えておいて下さい。
百舌の次なるターゲットは、美希でした。彼女は帰宅したところを何者かに襲われ、徹底的に凌辱されます。そして、あとには百舌の羽根が置いてあります。美希の次に標的になるのが自分だと察知した津城は、休暇を取り身を隠すために故郷の鷲ノ島に向かいます。
鷲ノ島がこの物語のラストになるわけですが、そこには美希と大杉、残間、紋屋、そして馬渡と秘書の松原が揃います。それと、当然のこと、そこには「百舌」が潜んでいます。最後の激闘シーンと百舌の正体は割愛しますが、この場面で今度は津城警視正が命を落とします。
倉木と「本物」の百舌が死んでしまい、津城までいなくなるシリーズはもはやこれで終わりかと思いきや、逢坂剛はまたまた新たな展開を用意してくれています。美希と大杉の闘いは、まだまだ終わりません。
この本を読んでみてください係数 95/100
※過去の百舌シリーズ書評はこちら↓
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◆逢坂 剛
1943年東京都文京区生まれ。
中央大学法学部法律学科卒業。卒業後は、博報堂に勤務しながら執筆活動。約17年後に退職、専業作家となる。
サビーカスのフラメンコギターのレコードを聴いて衝撃を受け、後にスペインに興味を持つようになる。スペインを題材にした小説も数多い。
作品 「カディスの赤い星」「屠殺者よグラナダに死ね」「百舌シリーズ」「岡坂伸策シリーズ」「御茶ノ水警察署シリーズ」「イベリアシリーズ」「禿鷹シリーズ」他多数
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