『小説 シライサン』(乙一)_目隠村の死者は甦る
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『小説 シライサン』(乙一), 乙一, 作家別(あ行), 書評(さ行)
『小説 シライサン』乙一 角川文庫 2019年11月25日初版
乙一 4年ぶりの最新作&映画原作! その怪談を聞いた人間は - 呪われる。
親友の変死を目撃した女子大生・瑞紀の前に現れたのは、同じように弟を亡くした青年・春男だった。何かに怯え、眼球を破裂させて死んだ二人。彼らに共通していたのはある温泉旅館で怪談を聞いたことだった。(ウェブサイトKADOKAWAより)
- あらすじ -
眼球が破裂した遺体が相次いで発見されるという異様ともいえる事件が発生した。遺体で発見された者たちには、息絶える直前に怯えているようで何かに取り憑かれた感じであったという奇妙な共通点があった。連続で起きたこれらの事件で親友を眼前で失くした女子大生の瑞紀は、同じく弟を失くした大学生の鈴木春男とともに大切な人を失った要因を突き止めるために調査に乗り出す。調査を行っている最中に、瑞紀と春男はこれらの連続事件のキーマンとされる詠子という女性を発見するが、何と2人の眼前において詠子の眼球が突然破裂を起こし、詠子はそのまま心臓麻痺により息絶えてしまう。2人は詠子が息絶える前に 「シライサン・・・・・・・」 という謎めいた言葉を呟いていたのを耳にしていた。その後、調査の過程において事件のことを耳にした記者の間宮幸太も加わり、更に “シライサン” に関する呪いの核心に迫っていく。それが呪いの渦に巻き込まれる前触れとも知らずに。(wikipedia)
あのな・・・・・・・。
ある男が、道を歩いてた。
鬱蒼とした山道だ。
薄暗い中を、どんどん歩いてた。
するとな、ちりん、と、どこかで鈴が鳴ったわけ。
渡辺は左手の人差し指を立てると、それを登場人物に見立てながら話した。人差し指を蛇行させるように左右に動かし、曲がりくねった山道を男が歩いているように想像させる。
鈴が鳴った場面では、人差し指が動くのを止めて、振り返るような仕草をした。
くるりと後方に指の腹を向けたのだ。
何だ? って、男は振り返る。
すると後ろの方にな、異様に目の大きな女がいたんだ。
男は気味が悪くて、早足になる。
だけどな、そいつがずっと、ついてくるわけ。
たまらなくなって、なんで追いかけてくるんだ、って聞いたら、女はこう言うんだ。
おまえが、私のことを知っているからだ、って・・・・・・・。
渡辺は右手の人差し指を立てて、それを女に見立てていた。男が逃げ、女がついていく。そのような場面を指をつかって表現する。
おまえは何なんだ! と男が言った。
するとその女は、シライサンだ、って名乗ったんだ。
男は、シライサン? と聞き返す。
ああ、そうさ。私を知ってるやつを追いかける。そして、殺すんだ、って。
やがて話は佳境に入る。
・・・・・・・来るな! もう来ないでくれよ! あんたの名前を聞いた奴、他にもいるだろ? そいつのとこに行ってくれよ! なあ、頼むよ! いるだろ? 名前を聞いた奴がよ!
私の名前を聞いた奴?
そうだ。俺たちの話に、耳を傾けて、シライサンって名前を聞いた奴が、いるだろ、そこに!
ああ、いるね、そこに・・・・・・・。
渡辺は、女に見立てていた人差し指を、突然、三人の宿泊客の方へ向けた。その瞬間、物語の中にいた登場人物が、こちら側を振り返って見つめたように感じられた。三人はそれぞれはっとした表情になる。俊之も、どきりとした。物語と、現実との境界が、その一瞬、曖昧になった。
次はお前だ。
女の役を演じていた人差し指が、三人を指さす。全員が肩を震わせた。
数秒間の沈黙。それから、渡辺は噴き出した。
- という 「話を聞いた奴が、次に呪われる系の話」。映画 「シライサン」 は2020年1月10日公開 監督・脚本:安達寛高 (乙一) 主演:飯豊まりえ 乞うご期待!!
この本を読んでみてください係数 80/100
◆乙一
1978年福岡県生まれ。本名は安達寛高。
豊橋技術科学大学工学部卒業。
作品 「失踪 HOLIDAY」「銃とチョコレート」「夏と花火と私の死体」「GOTH リストカット事件」「暗いところで待ち合わせ」「ZOO」「箱庭図書館」「死にぞこないの青」他多数
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