『父と私の桜尾通り商店街』(今村夏子)_書評という名の読書感想文
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『父と私の桜尾通り商店街』(今村夏子), 今村夏子, 作家別(あ行), 書評(た行)
『父と私の桜尾通り商店街』今村 夏子 角川書店 2019年2月22日初版
違和感を抱えて生きるすべての人へ。不器用な 「私たち」 の物語。
桜尾通り商店街の外れでパン屋を営む父と、娘の 「私」。うまく立ち回ることができず、商店街の人々からつまはじきにされていた二人だが、「私」 がコッペパンをサンドイッチにして並べはじめたことで予想外の評判を呼んでしまい・・・・・・・。(「父と私の桜尾通り商店街」) 全国大会を目指すチアリーディングチームのなかで、誰よりも高く飛んだなるみ先輩。かつてのトップで、いまは見る影もないなるみ先輩にはある秘密があった。(「ひょうたんの精」) 平凡な日常は二転三転して驚きの結末へ。
『こちらあみ子』 『あひる』 『星の子』 と、作品を発表するたびに読む者の心をざわめかせ続ける著者の、最新作品集! (角川書店)
[収録作品]
・白いセーター
・ルルちゃん
・ひょうたんの精
・せとのママの誕生日
・モグラハウスの扉 (書き下ろし)
・父と私の桜尾通り商店街
「白いセーター」
もう何年も前の十二月のこと。朝の情報番組で 「ホテルの豪華クリスマスディナー特集」 というのを観ていて、よし今年のクリスマスイブの晩ご飯は外食にしようと思い立った。
だけど、わたしとわたしのフィアンセである伸樹さんは、ホテルにいったことがなく、ホテルに着ていく服も持っておらず、ナイフとフォークどころか箸の持ち方さえよくわかっていないようなふたりだった。
夜、仕事から帰ってきた伸樹さんに、イブの夜に食べにいきたい店はあるかとたずねた。ホテルの豪華ディナー以外で。
「・・・・・・・お好み焼きか沖縄料理」
伸樹さんはそういった。お好み焼きか沖縄料理。たしかに、わたしたちの外食といえばそのどちらかしかなかった。沖縄料理の店にはひと月前にいったばかりだった。(P6)
物語はこんなふうに始まります。二人は結婚こそまだですが、既に同棲しています。それなりに “こなれて” いるはずなのですが、文面からは思いの外 “かたい” 関係が窺われ、「わたし」 がとても気を遣っているような気配が感じられます。
結局二人は、これまでにも行ったことのあるお好み焼き屋に行くことに決めます。「わたし」 はその際、去年のクリスマスに伸樹さんから貰ったまま、まだ一度も着たことのない白いセーターを着て行こうと思います。
事の発端は一本の電話で、それは伸樹の姉・ともかからのもので、クリスマスイブの当日、午前中だけでいいので彼女の子どもを預かって欲しいというものでした。ともかの半ば強引な頼みごとを断るわけにもいかず、「わたし」 は、下は四歳から上は小学五年生までの四人の子どもを預かることになったのでした。
そして当日。五人は 、(ともかがそうするようにと言った) クリスマスに行くとハンドベルの演奏会がありお菓子が貰えて子ども達が喜ぶという、教会へ行くことになります。
事件は - 実は事件という程大袈裟なものではなく、子どもがするイタズラの延長のような出来事だったのですが - その教会で起こります。というか、その出来事がより深刻な事態になるのは、子ども達と別れ家に戻ったその日の夜のことです。
※『こちらあみ子』 を読み、『あひる』 を読んだ方なら、必ずや感じるものがあるはずです。未読だという方、この本を読む前に、ぜひ前の二冊を読んでみてください。言葉にならない、しかし確かにある感情に気付くはずです。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆今村 夏子
1980年広島県広島市生まれ。
作品 「こちらあみ子」「あひる」「星の子」等
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