『残穢』(小野不由美)_書評という名の読書感想文

『残穢』小野 不由美 新潮文庫 2015年8月1日発行


残穢 (新潮文庫)

この家は、どこか可怪しい。転居したばかりの部屋で、何かが畳を擦る音が聞こえ、背後には気配が・・・・・・・。だから、人が居着かないのか。何の変哲もないマンションで起きる怪異現象を調べるうち、ある因縁が浮かび上がる。かつて、〈ここ〉でむかえた最期とは。怨みを伴う死は「穢れ」となり、感染は拡大するというのだが - 山本周五郎賞受賞、戦慄の傑作ドキュメンタリー・ホラー長編! (新潮文庫)

都市近郊に建つ小さなマンション -「岡谷マンション」の204号室で暮らす30代の女性、久保さんから「私」宛てに届いた一通の手紙。それがすべての端緒となります。

彼女の手紙には、その部屋に何かがいるような気がする、と書いてあります。

以前、「私」はこれに似たような手紙を受け取ったことがあります。調べてみると、それは屋嶋さんという20代後半の一児の母からのもので、屋嶋さんは久保さんと同じ岡谷マンションの401号室の住人であるのがわかります。

屋嶋さんからの手紙を額面通りに読むと、401号室には何かがいたことになります。それは宙にぶら下がる何かで、ときおり畳を擦るような音を立てます。

イメージされるのは揺れている縊死者の霊だ。爪先か、あるいは衣服の一部が床を擦って音を立てる。久保さんの見たものと考え合わせると、和服の女性が首を吊っている、解けた帯が床を擦っている、と考えるのが自然だろう。- 問題は、久保さんが住んでいるのは204号室だ、というところにある。

似たような現象が同じマンションの違う部屋で起こる? それは何を意味しているのか。二つの部屋の間に何か因縁めいたことがあるのか、ないのか。否、それとは別に、そもそも岡谷マンションができる前、ここはどんな土地だったのか。誰が暮らしていたのか。

久保さんと「私」はマンションに出現する怪異現象について、その発端を探ろうと動き出します。すると今度は、岡谷マンションとは別の、こんな話を耳にします。

岡谷マンションの隣には一戸建ての小団地、わずか6軒ばかりの「岡谷団地」があります。鈴木さんは当時35歳。紹介してくれた屋嶋さんの2歳上の女性です。1999年の9月、鈴木さん一家は不動産会社の仲介で「岡谷団地」へやって来ます。

所有者である黒石さんが転居し、家を賃貸して2人目の住人だった鈴木さんは、昔からとても霊感が強い女性で、入居後すぐに、妙な物音がするのに気づきます。(ちなみに最初の入居者は4ヶ月で黒石邸を出ています。転居の理由はわかりません)

ある日の夜、それは夕飯の後片付けをしているときのこと。BGM代わりにお笑い番組を流していると、ふいにテレビのボリュームが下がっていくのに気付きます。何をしたわけでもなく、テレビのコントローラーは元の置いた場所にあります。

嫌な感じだ、と鈴木さんは思います。テレビ番組の音が虫の羽音のように流れ、小さいけれど耳につき、かえって静寂が強調されたように感じます。思わずコントローラーに手を伸ばそうとしたとき、背筋に悪寒が走り、背後に何か、冷え冷えとした塊が生じた気配を感じます。

・・・・・・・ すぐ後ろに、何かいる。
鈴木さんはそちらを振り返ることができず、手許に意識を集中しようとした。こういうときは、何も気づかなかったふりをするに限る。変に振り向いたり、狼狽してはいけない。無視するのがいちばんだと、鈴木さんは考えている。

背後を意識しながら、ことさら何でもないふうを装って洗い物を続けた。ふと、視線が蛇口に止まった。銀色に研かれた長く平たい蛇口の表面に、洗い物をする鈴木さんの頭が映り込んでいた。そして、その背後に別の何者かの顔が。

それは鈴木さんのすぐ後ろにいた。長い髪の女のようだった。乱れた髪が青黒い顔に打ちかかっている。髪の間から見える眼は大きく見開かれ、極端に下に寄った瞳が鈴木さんの手許を肩越しに覗き見ていた。

岡谷マンションと岡谷団地。調べてみると、そこには「人の居着かない」部屋や家があります。時代と共に辺りの景色は一変し、人の出入りが多くあり、長い間に忌まわしく無惨な事件があったことがわかってきます。

娘の祝言のあと、晴着のまま首を吊った母親の話であるとか、昔あった工場で多くの人間が焼け死んだ話であるとか、何人もの腹を痛めたわが子を殺し、灯油缶に詰め庭に埋めて放置して、あげく姿を消した鬼畜のような女の話であるとか ・・・・・・・

死穢は伝染し、拡散するといいます。未だ浄化されずに彷徨う残余の穢れは、残余ゆえ、ときに意図なく出現します。もしかすると、あなたが暮らす家の周囲にも。 ぎゃああぁぁぁ!!! ・・・・・・・・

 

この本を読んでみてください係数 85/100


残穢 (新潮文庫)

◆小野 不由美
1960年大分県中津市生まれ。
大谷大学文学部仏教学科卒業。

作品 「東京異聞」「屍鬼」「黒祠の島」「くらのかみ」他多数

関連記事

『朝が来るまでそばにいる』(彩瀬まる)_書評という名の読書感想文

『朝が来るまでそばにいる』彩瀬 まる 新潮文庫 2019年9月1日発行 朝が来るまでそばにい

記事を読む

『藍の夜明け』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

『藍の夜明け』あさの あつこ 角川文庫 2021年1月25日初版 藍の夜明け (角川文庫)

記事を読む

『トリツカレ男』(いしいしんじ)_書評という名の読書感想文

『トリツカレ男』いしい しんじ 新潮文庫 2006年4月1日発行 トリツカレ男 (新潮文庫)

記事を読む

『あなたの本当の人生は』(大島真寿美)_書評という名の読書感想文

『あなたの本当の人生は』大島 真寿美 文春文庫 2019年8月1日第2刷 あなたの本当の人生

記事を読む

『珠玉の短編』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『珠玉の短編』山田 詠美 講談社文庫 2018年6月14日第一刷 珠玉の短編 (講談社文庫)

記事を読む

『生命式』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『生命式』村田 沙耶香 河出文庫 2022年5月20日初版発行 正常は発狂の一種 

記事を読む

『自転しながら公転する』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『自転しながら公転する』山本 文緒 新潮文庫 2022年11月1日発行 第16回

記事を読む

『日輪の遺産/新装版』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文

『日輪の遺産/新装版』浅田 次郎 講談社文庫 2021年10月15日第1刷 日輪の遺産 新装

記事を読む

『角の生えた帽子』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『角の生えた帽子』宇佐美 まこと 角川ホラー文庫 2020年11月25日初版 角の生えた帽子

記事を読む

『呪文』(星野智幸)_書評という名の読書感想文

『呪文』星野 智幸 河出文庫 2018年9月20日初版 呪文 (河出文庫) さびれゆく商

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『自転しながら公転する』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『自転しながら公転する』山本 文緒 新潮文庫 2022年11月1日発

『呪い人形』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『呪い人形』望月 諒子 集英社文庫 2022年12月25日第1刷

『騒がしい楽園』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『騒がしい楽園』中山 七里 朝日文庫 2022年12月30日第1刷発

『モナドの領域』(筒井康隆)_書評という名の読書感想文

『モナドの領域』筒井 康隆 新潮文庫 2023年1月1日発行

『ザ・ロイヤルファミリー』(早見和真)_書評という名の読書感想文

『ザ・ロイヤルファミリー』早見 和真 新潮文庫 2022年12月1日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑