『がん消滅の罠/完全寛解の謎』(岩木一麻)_書評という名の読書感想文
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『がん消滅の罠/完全寛解の謎』(岩木一麻), 作家別(あ行), 岩木一麻, 書評(か行)
『がん消滅の罠/完全寛解の謎』岩木 一麻 宝島社 2017年1月26日第一刷
【2017年・第15回『このミステリーがすごい!大賞』大賞受賞作】 がん消滅の罠 完全寛解の謎 (『このミス』大賞シリーズ)
日本がんセンターに勤める医師・夏目は、生命保険会社に勤務する友人から、保険金の不正受給の可能性がある案件について質問を受けた。余命半年の宣告を受けたがん患者が、リビングニーズ特約の生前給付金を受け取った後も生存しており、それどころか、その後に病巣がきれいに消え去っていた。同様の保険金支払いが立て続けに起きており、今回で四例目だという。連続する奇妙ながん消失事件。いったい、がん治療の世界で何が起こっているのか - 。(宝島社)
2017年 第15回『このミステリーがすごい! 』大賞/大賞受賞作
治るはずのないがんは、なぜ消滅したのか -
余命半年の宣告を受けたがん患者が、生命保険の生前給付金を受け取ると、その直後、病巣がきれいに消え去ってしまう - 。連続して起きるがん消失事件は奇跡か、陰謀か。医師・夏目とがん研究者・羽鳥が謎に挑む! (帯文より)
巻末にある選考経過を読むと、必ずしも辛口の選考委員たちが口をそろえて絶賛したわけではないのがわかります。(帯の裏にはそう書いてあるのですが・・・・)
読んですぐに思うのは、専門的な医学用語が多すぎて、一々蹴躓くようにして読まなければならない、ということ。何度か読み返し、何となくこうではないかと予測して、(本当はよくわからないのに)わかったようにして先へ進まなければならないということです。
医療の現場にいる人や知識がある人ならまだしも、そうではない私みたいなものからすると、中途半端にしか理解できずにすっきりしない気持ちばかりが後を引きます。テーマは面白く興味があるだけに、もうちょっと読み易くは書けなかったのだろうかと。
導入部。これから始まる話の〈枕〉となる、一人の患者の資料を夏目が渡し、それを羽鳥が読み上げる場面。
患者は江村理恵。三十五歳。肺門部原発扁平上皮がん、主要転移四ヶ所。小さいものは肺全域に十ヶ所以上点在。遠隔転移はなしでステージIV a 。動脈、食道等への浸潤が強く疑われる所見で、手術と放射線治療は選択できなかった。そこで夏目は、抗がん剤による治療を勧めた。
少し進んで、TLS(Tumor Lysis Syndrome)とは何かを説明する場面。
腫瘍崩壊症候群(TLS)は、腫瘍細胞が大量死する際に起こる緊急症の一つだ。抗がん剤が著しい効果を発揮した際などに、腫瘍内部に蓄積されていた核酸、リン酸、カリウムなどが一気に血中に流れ出して重度の電解質異常や急性腎不全を引き起こすことがある。死に至るケースも多い。
腫瘍を外科的に直接取り出すのではなく、抗がん剤や放射線治療などによって体内で死滅させる方法が進歩するにつれ、体内でがん細胞が大量に死滅することによるTLSのリスクが大きくなりつつある。元々は主に白血病のような血液腫瘍で問題視されていたが、近年の抗がん剤の進歩で固形がんでの報告も増えていた。
「ゲフの結果が出た」
「野口らの分類によるD型の肺腺がんということで宜しいですか? 」
「増殖は充実破壊性で低分化型だ。D型ということでよいだろう」
ゲフ? D型の肺腺がん? 充実破壊性? 低分化型?
書き出すときりがありません。何度も言うようですが、何となくこんなことだろうと予想はできます。しかし、ベースとなる知識や経験が無さ過ぎて躓いてばかりだと、肝心要のストーリーの方がおざなりになり時々どこの何を読んでいるのかわからなくなります。
本当は(賞を獲るほど)面白いのに、理解するのにへこたれて、これでは面白さが半減してしまわないかと。よくある新書のようなタイトルもどうかと思い、派手な帯がなければ、ミステリーだと気付かないかもしれません。
この本を読んでみてください係数 80/100
【2017年・第15回『このミステリーがすごい!大賞』大賞受賞作】 がん消滅の罠 完全寛解の謎 (『このミス』大賞シリーズ)
◆岩木 一麻
1976年埼玉県生まれ。
神戸大学大学院自然科学研究科修了。
作品 本作品で「このミステリーがすごい! 」大賞受賞
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